「私は仕事で忙しいです。結婚どころじゃありません」

「なんかいう度に仕事仕事って、そんなこと言ってるから武宏くんが逃げたのよ!」

「言っておきますけど、武宏を振ったのは私で、向こうではありません」

「誰が振ったのかそれがそんなに大事?あんたのように気が強くて性格の汚い女、どの男が好きになると思うの?武宏くんと別れたのは本当一生のミスよ、分かってる?男は所詮全部一緒なんだからね」


武宏と別れた瞬間からずっと続くこの嫌味。もう耳が腐るほど聞いたけどまだ慣れない。彩響の深刻な顔を遠くで寛一がちらっと覗くのが見えた。その視線に彩響はわざと大きい声を出した。


「あーお母さん、ごめんなさい、私今から会議出なきゃいけないので!また連絡します、それじゃ!」

「ちょっとさい…!」


又何かを言われる前に彩響はさっさと電話を切ってしまった。幸い又スマホが鳴ることはなかった。遠くから寛一さんがこっちへ近づいて来た。


「大丈夫ですか?」

「あ、気にしないで。いつものことなので」

「大変ですね」

「まあ…寛一さんは親から連絡頻繁に来たりします?」

「いいえ、もういい年ですので」

「ですよね…私もいい年なんですけどね…」

「あなたは男だから?」とまでは言わず、彩響はそのままカートを押しレジに向かった。寛一もそのあとを黙って付いてきた。なんだか気まずい空気の中、二人はそのまま家へ帰ってきた。


そして、部屋の中。

彩響は押入れの奥で眠っていた大きい箱を取り出した。ピンクのリボンを解き、蓋をあけるとおしゃれなフレームに包まれた写真が出てきた。その写真の人物は…

「まあ、こんな時期もあったんだね」