「雑巾だけではなく、綿類ならなるべく煮沸しています。特に下着は…」

「あーはいはい、分かりました。自分の下着事情までは明かさなくて大丈夫ですよ」

「いいえ、煮沸するのは彩響さんの綿100%の下着で…」

「ああああ!もう良いです!」


彩響が止めると、寛一はなにか物足りない顔をしたが、すぐ話を中断した。両手に持っていた洗剤を戻すと、彼がそのまま立ち上がった。


「他に必要なものはありますか?」

「いいえ、特には…お菓子コーナーちょっと見て帰りましょう」

「承知しました」


二人がそのような会話をしている途中、彩響のカバンからスマホが鳴った。画面を確認した彩響が自然とため息をつく。寛一さんが遠慮がちに聞いてきた。

「大丈夫ですか?」

「あ、別に話したくない人で…」


スマホがずっとなり続ける。空気を読んだ寛一はなにも言わずにカートを押して先に言ってしまった。彩響は声を整えて緑のボタンを押した。


「お母さん、久しぶりです」

「あなた、一体どういうつもり?」


電話に出た瞬間を見逃さない鋭い攻撃。さすが母だ。叫ぶような声にスマホを一旦耳から離した彩響が又耳を当てる。どうやら母はなにかイライラすることがあったらしい。なにかある度に、こうして電話をかけてきて様々なことをぶちまける。


「お母さん、どうしましたか?」

「どういうつもりなのか聞いてるの。今何処なの?外?」

「えーと、買い物中です」

「一人で?デートとかしないの?男は?」


厳密に言えば一人でもなく、隣に男もいる状況ではあるが…彩響は特に何も言わなかった。男の入居家政夫なんて、聞いたら気絶するに違いない。