ずっと言いたかった言葉を、こんなにはっきり言ってくれる人が目の前に現れるとは。彩響は涙が出そうになるのを必死で抑えた。寛一さんが心配そうに聞いてきた。


「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫です」

「もうちょっとゆっくり休んでください。先程の佐藤様から又連絡が来たら…」

「お願い、そのときは起こして。絶対何も言わないで」

「承知しました」


明日の佐藤くんへの言い訳を考えながら、彩響は目を閉じた。しばらくして、なにか冷たい感触が頭に触れた。びっくりして目をさますと、寛一さんがびくっとして手を離すのが見えた。


「失礼しました。熱があるのかと思い…」

「いや…熱はないです。でも…なんか気持ちいいからちょっと当てていて」

「え?」

「手、冷たくて、気持ちいいです」


彩響のお願いに、寛一が恐る恐る手をおでこに当てた。微妙に緊張しているのが伝わってきて、彩響は必死で笑いを抑えた。


「ちょっと、一眠りします」

「あ、はい。…おやすみなさい」

「うん、ありがとう…」


冷たくて、どこか不器用な大きい手。心が落ち着くのを感じ、彩響はすぐ眠りに落ちてしまった。





数日後。

百年ぶりの休み、しかし特にやることがない。ベッドと一心同体になり、ゴロゴロしていた彩響の耳にノックの音が聞こえた。返事をすると、エコバックを持った寛一さんがドアを開けた。

「これから買い物に行ってきますが、何か必要なものはございませんか?」

「どこ行きます?」

「駅前のスーパーです」


そういえば入居家政夫を雇ったあとからはしばらく行ってないところだ。彩響がベッドから立ち上がった。

「一緒に行きましょう」