「俺も最初からＣｉｎｄｅｒｅｌｌａ社にいたわけではなく、最初はネットで個人的に家事代行サービスをやっていました。しかし、やっと予約が来てその家を尋ねると、「なぜ男が来たのか」とすごく怒られて。仕事をするどころか、中へも入らせて貰えず、そのまま返されました。もちろんお金も貰えませんでした」

「そんな…」

「どれだけうまく仕事ができると言っても、大抵の人は信じてくれず…。運良く仕事をしても、クライアントがありえないくらい厳しく評価したりして。何度もそんなことが繰り返されるうちに、この仕事ではご飯を食べていけないと自然に分かってきました。しかし、俺も簡単には辞められませんでした。俺は特に学歴が良いわけでもなく、ただ洗濯と家事ができるだけの人間ですので…選択肢が広くなかったのです」


寛一さんは「学歴が良くないから」と言ったけど、だからとは言え、比較的「学歴の良い」彩響に幅広いチャンスが与えられたわけでもなかった。医大生でもなく、特別な技術を持っているわけでもない、若い女子大学生。しかも複数のアルバイトに追われ、じっくり就職活動をする余裕もなく…。

話を聞けば聞くほど、自分の話を聞いているようで心が苦しくなる。今までは自分が男だったら、すべての問題が解決すると思っていたのに…。複雑な気持ちで、彩響は黙って寛一さんの顔をじっと見つめた。寛一さんは少し寂しそうに笑い、つぶやくように言った。とても静かで、しかしとても強い力を感じる言葉だった。


「どうして皆、誰かを『男』か『女』に区別したがるのですかね。性別うんぬん言う前に、俺はただ、一人の人間で有りたいだけなのに」

（一人の、「人間」…）