「最初は男性向けじゃなく、女性向けのものを扱っていたんです。私も私の親友も、女性向けの雑誌を作ると思って入りました」

「なるほど」

「でも女性向けの雑誌はもうライバルが多すぎて、売上はほぼ赤字で…ある日、会社の方針が変わったんです。これまでの女性誌はすべてやめて、男性誌を始めると。それが決まってからすべての女性社員は自然と辞めるようになり…会社も彼女たちを止めたりしませんでした。なぜなら『どうせ女だから男の好みなんか分かるはずないだろ』と思っていましたから」



――「Ｍａｎ‘ｓ　Ｃｌｏｖｅｒの峯野彩響です」

「おいお嬢さん、お嬢さんじゃ話にならないから別の人に変わりな。担当お前じゃないだろう？」


電話越しの中年男性は彩響の声にすぐタメ口で返してきた。同じようににタメ口で返してあげたい気持ちを抑え、彩響が答えた。


「大変恐縮ですが、車の備品コーナーを担当しているのは私です。ご用件がございましたらお聞きいたします」

「はあ？あんた女だろう？女が車とか分かるわけねぇだろ！さっさと担当に代われ！」

「ですから、私が担当ですので…」

「もういい！上のやつ出せ！」


…その後は上司に呼ばれ、きちんと対応ができなかったと叱られた。一体これ以上何をすればいいのか、彩響には全く分からなかった。性別を変えれば良かったのか？声を低くして男のふりをすればよかったのか？言いたいことが喉まで上がってきたけど、彩響は必死で声を抑えた。


「…女性社員が徐々に減って、最後には親友も辞表を出して…結局一人になって、私も辞表を出そうとしたんですけど…どうしても悔しくて。悔しすぎて辞められませんでした」