目を開けると、天井が見えた。

体を包む優しい感触と、気持ち良い洗剤の匂い。しばらく今の状況を把握できず、彩響は何回か瞬きをした。そして顔を横に向けると、見覚えのある頭が見えた。ベッドの下で何かを読んでいた彼が、彩響に気づき声をかけた。

「大丈夫ですか？」

質問の意味がわからず、しばらくキョトンとしてその顔を眺める。寛一さんは余計心配になったのか、体温計を持ってきた。脇の間に入れようとするのを彩響が止める。

「いや、もう大丈夫です」

「本当ですか？倒れたとき、どこかぶつかっていませんか？」

「言われてみると…ちょっとお尻が痛いような…痛くないような…」

「先程電話がありました。確か…『佐藤さん』と言う方からでした」

「え？！佐藤くんから電話きたの？！何て答えたんですか？！」

「彩響さんは現在電話に出られない状況だとお伝えしました」

「…で、佐藤くんはなんて？」

「『お邪魔して悪かったです』、と」

「いや、間違ってないけど、間違ってないけど…　！」


間違いない、絶対佐藤くんはなにかを勘違いしている。彩響はベッドの上で顔を抱え、今後の収拾策を考える。決して、そんなことをしたわけではない、ただ倒れて、倒れて休んだだけなのに…！苦しむ彩響を見て寛一が心配そうに尋ねた。


「本当に大丈夫ですか？やはり病院へ一回行ったほうが…」

「これはあなたのせいでしょう！あなたが変なこと言うから、きっとみんな誤解してますよ！」

「…何を誤解するのですか？」

「もう結構です！一人になりたいのでさっさとこの部屋からログアウトしてください！」