「やはり、少しだけでも休んだ方がいいです。3時間くらい、いや1時間でも寝てから戻ったらいかがですか?」

「はい?なんで?」

「今歩いているとき、体がふらふらしていました。このままだと危険です。どこかで倒れます」

「ふらふら?まさか、気のせいでしょう」

「いや、確かに見ました。実際今でも震えています。会社には事情を説明して、ちょっとくらい休んでください」


何回も繰り返す会話に、そろそろイライラしてきた。今でも焦れったい気持ちなのに、焦って焦って仕方がないのに、呑気なことばかり言ってくる。彩響がお弁当箱をひったくるって叫んだ。


「いい加減にしてください。あなたに何が分かるって言うの?今でも私の周りは私を首にしたくて、皆目を大きく開いて私のこと監視してるんですよ?私は女だから、だから奴らより10倍以上頑張らないといけないんですよ!」

「彩響さんの努力はみんなご存知のはずです。ここまで無理をしてまで仕事をこなそうとは…」

「うるさいよ、何も知らないくせに!あなただって男のくせに、なにが分かるって言うの?!知らないならもういい加減だまっ…!」


大声を出した瞬間、いきなり周りが白くなる。部屋の家具も、テレビも、前に立っている人も、なにもかもが…。異変を感じた寛一さんが聞いた。


「彩響さん…?」

「ごめん、なんか、私…」


その言葉を残して、彩響は体の力が抜けるのを感じた。背中に伝わる痛み、そして…

「――彩響さん?!彩響さん!しっかりしてください、彩響さん!」


自分を呼ぶ声と一緒に、彩響の意識もそのまま消えた。