「主任、リスト持ってきました!」

「分かった、じゃあ上から電話回して。今日の15時、代々木に来られる人優先に。今日の撮影コンセプトも伝えておいて!」

「は、はいっ!」


もう真っ赤に充血した目で瞬きをして、彩響は再び席へ座った。こんな細かい事件は、7年働いている間何度もあった。これくらい、これくらい… 机においてあったチョコボールを口に流し込み、今日もこうして自分自身を洗脳する。口の中で広がるチョコの甘さを感じる余裕さえ、今の彩響にはなかった。




「…これは、ひどいですね」

玄関を開くと、寛一さんが一言言う。何を言うのかと思い、ぼんやりとその顔を見る。寛一さんが心配そうに言葉を続けた。


「すごい顔です、全く寝てないですね」

「…寝てますよ」

「きちんとした、良質の、睡眠を取れていない顔です。3日も徹夜したのですか?」

「ごめんなさい、私すぐ会社に戻らなきゃいけないの。今日は着替えに来ただけなので。…なんかお弁当に出来そうなものあったりします?」

彩響のお願いに、寛一さんがキッチンへ入った。彩響も部屋に入り、着替えてリビングに出ると、お弁当の入った袋をもった寛一さんが待機していた。

「ありがとうございます」

歩くだけなのに体が重い。今すぐ温かいお風呂に入って、美味しいもの食べて、ふわふわのベッドで、いい洗剤の匂いに包まれ眠りたい。でもそんなことをしていたら、いつ周りに抜かされるか分からない。そんな不安が大きすぎて、ゆっくりと休めない。

「彩響さん」

後ろで家政夫さんが呼んだ。振り向くと、彼がこっちへ一歩近づいて来た。