ふと彼が持ってきたミシンのことを思い出す。ミシンで何か作っていたんだろうか?その「趣味活動」について質問しようとした瞬間、又別のメッセージが届いた。

「朝にはお帰りください。食事作ってお待ちしています。」

「ふふふ…」

心の中では必死に否定したいけど、口から出てくる笑い声は抑えられなかった。正直、ちょっと可愛いと思ってしまった。

結婚して、家で嫁が待っている既婚者の気持ちがこんなものだろうか。彩響も返信を返した。

「分かりました。もう休んでください」

しばらくして、可愛い猫が寝ているスタンプが送られてきた。今回は本当に我慢できず、大きい声で笑ってしまう。

「さあ、5時までには終わらせよ。嫁…いや、家政夫さんが待っているから」




ーしかし、愛しき家政夫が待っている家には、なかなか帰れなかった。

「モデルさんが移動中交通事故にあったらしっす!」

走ってくる佐藤くんの声で彩響がぱっと立ち上がった。

「事故?どこで?いつ?怪我したの?」

「怪我はないですけど、保険関係の処理があるから予定時刻には間に合わないと…こ、これはどうすれば…!」

「今すぐモデルのリスト持ってきて。似たようなイメージの人、リストアップしてください。15分あげる」

「わ…わかりました!」

佐藤くんが走っていったあと、今度はスマホが鳴った。相手は家政夫さんじゃない。今日ランチミーティングで会う予定のクライアントが、希望していたデザインを修正したいという内容だ。この内容だと、持っていく予定だった試案はまるごと変えなきゃいけない。数分悩んだ結果、彩響は用意しておいたプリントを全部ゴミ箱にぶち込んだ。