「ほら、さっき散々言ってたじゃないですか。『女子力』とか『ゴミ屋敷』とか。おそらく『仕事なんかせず、毎日朝ごはん作って、会社から帰ってくると綺麗なお家で迎えてくれて、いつもニコニコと愛嬌のある可愛い女性』だったらいけるんじゃないかしら」

「彼は一体何世紀の人ですか?」

「寛一さん、あなたが未来から来ているのかもしれませんよ。世の中はまだまだあんな考えを持っている人がいっぱいいますから」


彩響の言葉に寛一さんはため息をつく。深く深呼吸をすると、顔を上げた。


「今日のインタビュー、うまくいくことをお祈りします。頑張ってください」

「あ…はい、今日は本当にありがとうございました」

「では、俺はこれで失礼します」

寛一さんは丁寧にお辞儀して、そのままホテルの玄関へと向かった。残された彩響の顔にふっ、と微笑みが滲んだ。なんだか、久しぶりに自分のために本気で怒ってくれる人に出会った気がする。

「…変な家政夫さん」

寛一さんの姿が見えなくなったあと、彩響も会場へ戻った。



――それから数日。

地獄のような月末を無事乗り越え、ひさしぶりの休み。彩響はベッドの上でゴロゴロしていた。今月はライターたちの原稿が更に遅くて、印刷所にデータを渡すその瞬間まで、息すらまともにできないほど緊張した。今日は今月の雑誌が書店に出荷する日。ずっと何もせず天井を見ていた彩響の耳にスマホの着信音が鳴った。そのまま体を起こし、内容を確認すると…

「寛一さん、寛一さん!」

リビングへ出ると、洗濯物を畳んでいた寛一さんが目を丸くしてこっちを見る。

「どうされましたか?」