「武宏、もういい加減に…!」

一歩踏み出した瞬間、寛一さんが彩響の手を引っ張った。驚いて振り向くと、彼が武宏をまっすぐ睨むのが見えた。

「あなたが彩響さんとどのようなご関係だったのか、俺にはよく分かりません。しかしこんなダサいお葬式のスーツを着て、しかも清潔感のかけらもないとは…俺が人生で見た男たちの中では下の下レベルです」

「はあ?お葬式?お前、これがいくらだと思ってるんだ?!」

「値段は関係ありません。むしろ高いお金を使ってこのダサさとは、ただの馬鹿なのでは?動物さえ場所と時間に合わせ毛の色を変えたりするのに、あなたはその動物以下ですね。そしてその最悪のスーツに負けないレベルの口ぶり…きっとあなたとお付き合いする女性も、さぞかし大変だったのでしょう。こんな男、さっさと捨てた方が人生得します」


「お、お前、よくもべらべらと…!」

「彩響さん、エレベーターが来ました。さっさと行きましょう」

マシンガンのように言葉を投げた寛一さんは、彩響の手を引っ張りエレベーターに乗った。慌ててそのまま乗ると、向こうに武宏のアホ面が見える。そのままドアが締まり、エレベーターが動き出した。
なんだか気まずい中、そのまま二人は1階ロビーへ付いた。手はずっと握ったままだった。


「あの…手が…」

「…!」

やっと気づいたのか、寛一さんが慌てて手を離した。視線もこっちに向けてくれない。お互いぎこちない雰囲気の中、先に彩響が口を開けた。


「あの…」

「はい」


これを聞くべきか聞かぬべきか、しばらく迷ったが…結局彩響は聞く道を選んだ。

「あの…なんで助けてくれたんですか?」

「それは…」