寛一さんは納得のいかない顔で、しぶしぶ彩響の反対側に体を向けた。彩響はさっさと今着ていたドレスを脱いで、さっきの青いドレスに頭を入れる。できるだけ自分でやろうと思ったけど、普段着慣れていない服は中々難易度が高いものだ。結局彩響は自分からSOSを出した。


「あの、手伝ってもらえますか?」


こっちへ近づいた寛一さんが前から彩響の腰に手を回す。どんと近づいた距離に驚く暇もなく、早速家政夫さんの「着付け」が始まった。


「スカートが上がっていますので、下ろします」

「は、はあ…」

「こちらのリボンも結びなおします」

「お願いします…」

(ち、近くない?すごく密着している感が…)


混乱している彩響とは真逆に、寛一さんはドレスの形を整えることに夢中だった。複雑な気持ちを抱いたまま、彩響は黙って彼の作業が終わるのを待つ。彼のシャツから一瞬慣れた匂いがしてびくっとしたけど、すぐそれが家で使っている洗剤の匂いだと気付いた。

男のシャツの匂いなんて、久しぶりすぎて逆に不思議な気持ちになる。

(なんか…緊張するの私だけ?本当に女に興味無いの?全く気にならないわけ?)

「…?どうかしましたか?」

「いいえ!なんでもないです」

「これで良いかと思いますので、鏡でご確認ください」


あっちこっち弄ったあと、やっと寛一さんは彩響を離してくれた。なんの動揺もないその態度が少し気に障るが、その不機嫌は鏡を見た瞬間すぐ消えてしまった。綺麗にフィットした青いドレスの自分は、とてもスマートに見えた。あ、もちろんそこに爽やかさも追加。


「すごい…洗濯だけじゃなくて、着付けもできるんだね。着物とかもいけます?」

「着付けの授業は受けています」

「すごい!本当万能だね!」


彩響の褒め言葉に寛一さんは気まずく視線をそらす。その姿がちょっと可愛いと思い、彩響はふっと笑ってしまった。


「ありがとうございます、寛一さん。今日のお相手は大物作家だからちょっと緊張していたけど、これで自信がついたと思います。良いインタビューができそうです!」

「あ…はい。お仕事、頑張ってください」