このマンションに引っ越しして来て以来、こんなにも賑やかな空気になったのは、もしかしたら初めてかもしれない。4人の家政夫たちはリビングに集まり、それぞれの話を始める。彩響が一人キッチンに入ると、リビングにいた寛一さんも一緒に入ってきた。


「あ、いいよ。飲み物くらい私が用意しますので」

「ですが…」

「ほら、早く。友達が待ってますよ」

「だから、友達ではありません」

「もうどうでも良いですよ、さっさと行ってあげて」


寛一さんを追い出すと、彩響は冷蔵庫からジュースを出した。きれいに整理されている引き出しからコップを4つ出し、ジュースを注ぐ途中も、男たちの話は続く。寛一さんの声はほぼ聞こえないが、話の中心にはやはり彼がいた。


「前も思ったけど、ここって本当いいマンションだよな。こんなところで仕事できて良かったな、寛一。まあ、俺を選ばなかったのはちょっとショックだったけど」

「まだ言ってるんですか、成。クライアントが選んだから、それ以上文句いうのは禁止ですよ」

「べつに文句言ってるわけじゃないってば。で、生活はどう?慣れた?」

「慣れた」

「相変わらず返事短いねー。ねえ彩響ちゃん、本当に大丈夫?」


ジュースを持って行った彩響の隣で、雛田くんが聞く。彩響は最初その質問の意図がよく分からず、聞き直した。


「大丈夫、と言いますと…?」

「ほら、寛一さんって洗濯しか知らないバカだから、なんか変な執着して彩響ちゃんを困らせたりしてないかなーと思って」


その言葉に彩響は一瞬口を噤み、寛一さんの様子を探る。無口な家政夫さんは黙ってジュースを飲むだけで、特に何も言わない。彩響は自分の心拍数が上がるのを感じた。


(え、まさか…! パンティーのこと話すの?そのつもりなの?!)