今日は1ヶ月前から予定されていたインタビューがある日だ。相手は最近放送スタートしたドラマの助演男優。「新人でありながらも、安定した演技力のイケメン俳優」とのことで、今回のスケジュールも結構無理して押さえた。そしてやっと迎えた当日だったが…

「はい?30分前に電話で確認させていただいたはずです、なぜ…」

「いや―ごめんなさい、いきなり『今日はやる気ないから―』と言われまして。もうそんなこと言ったら絶対動かない人なので…」


電話越しのマネジャーさんの声がどんどん小さくなっていく。ああーどうして悲しい予感は絶対外れないのだろう。彩響は用意したインタビュー用紙をバックの中にぶち込んだ。


「中村さんの出演されているドラマ、とても話題になっておりますので、是非取材させて頂きたいと思います。いつでも構いませんので、ご連絡お待ちしております」


通話終了のボタンを押した後、彩響は椅子に座ったまま、しばらくぐったりした。口からは自然に「ちくしょ…」という言葉が漏れてくる。このインタビューのためにどれだけ苦労したか、どれだけ他の業務を後回しにしたのかを考えると、簡単にはこの怒りを抑えられない。自分の意欲のように冷めてしまったコーヒーカップを握り、ぶつぶつ文句をつぶやく。

「あのクソ野郎…当日ドタキャンとかマジ許さない!ちょっと売れてるからって偉そうに…こっちもあんたのせいでやる気が家出したんですけど!」


朝から、いや、かなり前から準備してきた案件だったので、知らないうちに緊張していたのかもしれない。テーブルに顔を乗せ、彩響はしばらくの間心を落ち着かせた。いくら経歴の長い彩響でもこのようなことは慣れないものだ。今までどれくらいドタキャンで苦しんできたものか…


「2時か…」


腕時計の時間を確認してふと思う。

(ミーティングまでまだ時間あるし…一回家帰るか…)

そういえば今日はまだ何も食べてない。家に帰って何か作ってもらおう。彩響はコーヒーカップをカウンターへ戻し、そのままカフェを出た。



「…あれ?」

マンションの玄関前に人が集まっている。よくよく見ると、全員見覚えのある顔だ。遠くから彼らの声が聞こえる。