(私が…好き?)
今耳に聞こえた声をそのまま受け入れられず、彩響はそのまま凍りついてしまった。
(好きなの?一体いつから?なんで?そもそも、好きな人に、メモ一つ残さず姿を消したりするの?)
疑問はただ深まっていく一方で、突然の告白は全く役に立たない。彩響が又質問した。
「私のことが好きなら…どうして黙って消えたりしたの?」
「それは…俺は、あの編集長のようになりたくなかったからです」
「どうしてここであの編集長の話が出るんですか?あいつと寛一さんは全く違う人でしょう」
「どうでしょう。根本は同じかもしれません」
寛一さんが苦笑いをした。その顔は本当に寂しそうで、辛そうにも見えた。
「あなたが今までずっと差別に苦しんできたことはよく知ってました。俺が男として差別されたことも確かにありましたけど、あなたに比べたらそれは可愛いもんでしょう。だから、俺もずっと彩響さんを一人の人間として接したいと思っていました。最後の最後までいい友人としていたかったです。…でも、あの夜、あいつがあなたを襲ったあの日、あいつを一発殴ったりもしましたけど…裏ではこう思っている自分がいました。…『あんなやつにやられるくらいなら、俺が先に手を出しておけばよかった』と」
「そんな…」
「表ではいい人のふりして、裏ではそんなこと考える自分が嫌になりました。彩響さんは俺を男でも女でもない、ただ一人の人間として認めてくれているのに、最初はその事実がとても嬉しかったのに…いつの間にか俺だけがあなたを女として扱いたいと思っていました。こんな気持ちで一緒にいると、いつあなたに手を出してしまうか、怖かったです。今まで彩響さんが俺に見せてくれた信頼や、優しい気持ちを、俺が全て壊してしまいそうで…。こんな気持ちを説明するのも辛くて、逃げる道を選びました。本当にごめんなさい。卑怯ですけど、これが俺の最善でした」
淡々と話す彼の声には切なさが隠れていた。今までの悩みや、苦しさ、その他色んな感情が混ざっていて、それを聞く彩響に痛いほど伝わった。
――でも、違う。寛一さんは大山とは違う。