Mr.Pinkがやさしい微笑を見せる。又一口ハーブティーを飲み、彼が話す。

「仕事を辞める直前に、彼が私を訪ねて来たんだよ」

「事務所に、ですか?」

「そう。私も最初は驚いてね。一応訳を聞いてみたが…」





「…仕事を、辞めたいと思います」


突然の宣言にMr.Pinkが驚いた顔で聞いた。誠実の代表とも言われた彼がこんな形でいきなり仕事を辞めたがるとは、意外だった。


「…なにか職場で問題でも?」

「いいえ、全くありません」

「ならどうして?どこでもトラブルはある。不満があれば、まずは話し合って解決するのが先だと思うが」


寛一は顔を横に振った。その姿はとても辛そうに見えた。


「違います、彼女に問題があるわけではありません。むしろ…問題があるのは俺の方です」

「……」

「彩響さんはとても素敵な人です。俺が会ってきた中で、もっとも強くて優しい人です。俺は最後の最後まで彼女のいい人として記憶に残りたいです。それだけです」


話を終え、寛一が立ち上がる。Mr.Pinkは彼に手を出した。初めて会った時のように握手して、扉を出る彼にMr.Pinkが質問した。


「…ここを辞めて、何をしようとしている?」

「そうですね。まだ行き先もはっきり決めたわけではないですが…」


しばらく悩んで、寛一が答えた。


「…ただ、彩響さんがいない遠いところに行きたいです」






「…やはり、分からないです」


話を聞いても疑問のままだ。これからずっと、なんの問題もなく、いい関係でいられると思ったのに。


「寛一さんには何度も助けてもらいました。困ったときも、危険なときも。なのに最後の最後には私がいないところに行きたいって、それは一体どういう意味なんでしょう。…もしかしたら、気付かなかったのは私だけで、私にうんざりしてもう二度と会いたくないんでしょうか」

本当にそうなら、彼の行方なんか気にせず、このまま終わらせてしまった方が良いかもしれない。そう考えると凄く悲しくなり、これ以上は話せなくなった。


「さあ、彼の思いは彼のみが知っているだろう。だが、ハニー。人間は意外と自分が欲しいものが何なのか、自分自身でも知らないときがあるんだよね」

「欲しいもの、ですか?」

「そうだ。ハニー自身は何を今求めているのか、じっくり考えて欲しい。そして、根本的に、なぜ今ハニーがここまで怒ったり落ち込んだりしているのか、それも合わせて考えてくれ」

「はい?だって、私は彼が何も言わずに消えたから怒っているんですよ?」

「そうだね、でも他の家政夫ならいくらでもいる。実際今河原塚くんが家事をやってくれているから、生活に不便ないだろう?」


Mr.Pinkが立ち上がる。帽子を頭に被り、軽いウィンクを投げた。


「三和くんに会いに行ってくれ。だが、その前にハニー自身の感情の整理も必要だろう。自分がなぜここまで切実になっているのか、よく考えてくれ」