「はい!じゃ俺は残りの荷物持って来るんで!」
佐藤くんが慌てて出て行った後、彩響は早速スマホを出して寛一さんに電話をかけた。会社でどうなったのかを聞くときっと喜んでくれる。どきどきしながら待ったけど、なぜか彼は電話に出なかった。
(シャワー中?)
数回掛け直しても、やはり彼は出てくれない。携帯をおいてどこかに出かけているんだろうか、諦めてスマホをポケットに戻そうとした瞬間、着信音が聞こえた。彩響は急いで電話に出た。
「はい、もしもし?」
「彩響。あなたなんかあったの?」
あ、ミスった。この人は寛一さんじゃない。彩響は向こうに聞こえないように小さい声でため息をついた。
「お母さん、どうかしましたか?」
「あなたが警察署に出入りしているのを見た人がいるらしいけど。どうしたの?」
一瞬迷った。適当に誤魔化しても良いかもしれない。しかし彩響は別の選択肢を選んだ。
「編集長が私を呼び出してレイプしようとしたんです。その件で警察署に行ってきました」
しばらくの間沈黙が流れる。もしかして…と少し期待してみるけど、やはりそれは愚かなことだった。早速お母さんの声が聞こえる。
「まさか。なにかの勘違いでしょう。それくらいの地位の人がなんで?」
「理由はともあれ、現行犯として逮捕されてます」
「きっとあなたにその気があったのでしょう。それとも、あなたがなにか隙をあたえたんじゃない?」
「いいえ、してません。そして私はクビになった編集長の代わりに昇進したんです。これからは私が編集長です」
「まあ…そう…。でもお母さん心配だわ。だって、あなたもう若くないでしょう?男って、やはり自分より偉い女は嫌がるのよ」
「じゃあ、私はそのままレイプされ、何も言わずにその編集長の愛人になってただただ耐えるべきだったとでも言ってるんですか?」
「誰もそんなことは言ってないでしょう。私は現実を教えているんだよ。あんた一人だけお高くとまっていても、世間はそうじゃないのよ?」
少しでも期待していた自分がバカだった。いくらあのお母さんでも、実際娘がレイプされそうになったと言われたらショックくらい受けると思った。しかしショックどころか、娘の身の心配すらない。30年の人生かけてずっとこんな感じだったのに、一体なにを期待していたんだろうか。
「…世間がそうなのは認めます。しかし、それが当たり前のように、助言のように私に言うのはただの無礼にすぎません」
「はあ?私はあなたの母よ?あなたを生んだのよ?そんなことを言うあなたこそお母さんに対する礼儀がないとは考えられないの?」
「全くです。私を自分の所有物としか扱わないあなたにはもううんざりしてますけど、今日はさらにがっかりです」
昔だったら、今この瞬間涙が出て電話を切ったんだろう。しかしもう違う。お母さんに認められなくても、自分にはありのままの自分を見てくれる人がいる。それが必ずしもお母さんである必要はないと気付いたから、もう大丈夫。
「私はもうお母さんにあれこれ言われ傷ついたりしません。この世界のすべての人がお母さんと一緒ではないと知りましたから。これからはそんな人たちだけと関わりながら自分の幸せを探します」
「ちょっと、あなた何言って…!」
佐藤くんが慌てて出て行った後、彩響は早速スマホを出して寛一さんに電話をかけた。会社でどうなったのかを聞くときっと喜んでくれる。どきどきしながら待ったけど、なぜか彼は電話に出なかった。
(シャワー中?)
数回掛け直しても、やはり彼は出てくれない。携帯をおいてどこかに出かけているんだろうか、諦めてスマホをポケットに戻そうとした瞬間、着信音が聞こえた。彩響は急いで電話に出た。
「はい、もしもし?」
「彩響。あなたなんかあったの?」
あ、ミスった。この人は寛一さんじゃない。彩響は向こうに聞こえないように小さい声でため息をついた。
「お母さん、どうかしましたか?」
「あなたが警察署に出入りしているのを見た人がいるらしいけど。どうしたの?」
一瞬迷った。適当に誤魔化しても良いかもしれない。しかし彩響は別の選択肢を選んだ。
「編集長が私を呼び出してレイプしようとしたんです。その件で警察署に行ってきました」
しばらくの間沈黙が流れる。もしかして…と少し期待してみるけど、やはりそれは愚かなことだった。早速お母さんの声が聞こえる。
「まさか。なにかの勘違いでしょう。それくらいの地位の人がなんで?」
「理由はともあれ、現行犯として逮捕されてます」
「きっとあなたにその気があったのでしょう。それとも、あなたがなにか隙をあたえたんじゃない?」
「いいえ、してません。そして私はクビになった編集長の代わりに昇進したんです。これからは私が編集長です」
「まあ…そう…。でもお母さん心配だわ。だって、あなたもう若くないでしょう?男って、やはり自分より偉い女は嫌がるのよ」
「じゃあ、私はそのままレイプされ、何も言わずにその編集長の愛人になってただただ耐えるべきだったとでも言ってるんですか?」
「誰もそんなことは言ってないでしょう。私は現実を教えているんだよ。あんた一人だけお高くとまっていても、世間はそうじゃないのよ?」
少しでも期待していた自分がバカだった。いくらあのお母さんでも、実際娘がレイプされそうになったと言われたらショックくらい受けると思った。しかしショックどころか、娘の身の心配すらない。30年の人生かけてずっとこんな感じだったのに、一体なにを期待していたんだろうか。
「…世間がそうなのは認めます。しかし、それが当たり前のように、助言のように私に言うのはただの無礼にすぎません」
「はあ?私はあなたの母よ?あなたを生んだのよ?そんなことを言うあなたこそお母さんに対する礼儀がないとは考えられないの?」
「全くです。私を自分の所有物としか扱わないあなたにはもううんざりしてますけど、今日はさらにがっかりです」
昔だったら、今この瞬間涙が出て電話を切ったんだろう。しかしもう違う。お母さんに認められなくても、自分にはありのままの自分を見てくれる人がいる。それが必ずしもお母さんである必要はないと気付いたから、もう大丈夫。
「私はもうお母さんにあれこれ言われ傷ついたりしません。この世界のすべての人がお母さんと一緒ではないと知りましたから。これからはそんな人たちだけと関わりながら自分の幸せを探します」
「ちょっと、あなた何言って…!」