「先日大山に会ってきた。最初から最後まで自分を弁護するばかりで、反省のかけらも見当たらなかった。…もちろん、社内に付いていた監視カメラや、他の社員からの証拠資料もすでに把握済みだ。今まであんなやつを雇っていたことが恥ずかしくて仕方ない。だから大山はクビだ。そして、空席になった編集長を、ここにいる峯野に任せたいと思っている」
「…え?」
「社長、いくらなんでもそれは…!」
「ここで異論のあるやつは、峯野より適任者の候補を出し、その候補の実績や功績を言ってみろ。この会社の中で峯野より優れているやつがいるなら、俺も文句は言わない」
又沈黙が流れる。社長が満足したように振り向いて、彩響を見た。今の提案が突然すぎて、まだ状況がはっきり把握できていない。
「私が、編集長に…ですか?」
「そうだ。俺は俺の娘たちにも自分の能力を自由に発揮できる世界を作りたい。ならまず俺の会社から変わるべきだ。…この会社の中で最も誠実で、最も実績のある君にぜひ編集長になって欲しい。君こそが編集長に相応しいと俺は思う」
短い時間の間、様々な考えが頭の中をめぐる。不安、心配、喜び、緊張、その他名前をつけるのも難しい細かい感情。
めくるめく感情の津波の中、暗くて長いトンネルを歩き続け、一歩踏み出す、その先に――。
「…はい、やらせてください」
「決まりだね」
社長が微笑む。そして振り向き、腐った表情の役員たちに又宣言した。
「本日から新しい編集長は峯野彩響に決まった。これ以上文句は言わせない。これからも彼女のまぶしい活躍を期待するといい」
席に座って深呼吸をする。数分前のことが未だに信じられない。周りの社員たちがざわめく中、佐藤君が息を切らして走ってきた。
「峯野しゅ…いや、峯野編集長!片付け終わりました!」
「あ、佐藤君…。ありがとう、わざわざ片付けまでしてくれて」
「いやいや、これくらいなんでもないっす!せっかくなら綺麗な部屋に入って貰いたい俺の勝手なので!」
話を聞いた佐藤くんは誰より早く編集長の部屋に飛び込み、そこにまだ残っていた大山の私物を片付けてくれた。彼曰く、スッキリしたところに彩響に入って欲しいとのこと。「そこまでしなくても…」と一応止めたが、佐藤くんは嬉しくてたまらないらしく、許可も貰わず行ってしまった。そして、彩響の私物の入ったダンボールも直接運んでくれた。
「すみません、消臭剤が無くて。まだタバコくさいっすけど、ちょっと我慢してください」
「いいえ、大丈夫だよ。本当にありがとう。佐藤くんには何回お礼を言っても足りないくらいだよ」
「そんな、俺は本当何もしてないっす。これは全部峯野しゅに…いや、峯野編集長が日頃頑張ってきたおかげたと俺は思ってるっす」
お人好しの佐藤君は、褒め言葉に照れた様子で手を振った。そうだ、決して誰もかもが自分を否定してきた訳ではない。佐藤君を見ていると、なんの疑いもなくそれが真実だと信じられる。
「峯野しゅ…いや、編集長」
「いいよ、気にしないで」
「いえいえ、編集長、そういえば…『あの方』には連絡しないんすか?」
「あ…」
そうだ、もう一人いたんだ。誰より強く、ずっと、自分を一人の『人間』として応援してくれた人――。
「うん、今すぐ電話します」
「…え?」
「社長、いくらなんでもそれは…!」
「ここで異論のあるやつは、峯野より適任者の候補を出し、その候補の実績や功績を言ってみろ。この会社の中で峯野より優れているやつがいるなら、俺も文句は言わない」
又沈黙が流れる。社長が満足したように振り向いて、彩響を見た。今の提案が突然すぎて、まだ状況がはっきり把握できていない。
「私が、編集長に…ですか?」
「そうだ。俺は俺の娘たちにも自分の能力を自由に発揮できる世界を作りたい。ならまず俺の会社から変わるべきだ。…この会社の中で最も誠実で、最も実績のある君にぜひ編集長になって欲しい。君こそが編集長に相応しいと俺は思う」
短い時間の間、様々な考えが頭の中をめぐる。不安、心配、喜び、緊張、その他名前をつけるのも難しい細かい感情。
めくるめく感情の津波の中、暗くて長いトンネルを歩き続け、一歩踏み出す、その先に――。
「…はい、やらせてください」
「決まりだね」
社長が微笑む。そして振り向き、腐った表情の役員たちに又宣言した。
「本日から新しい編集長は峯野彩響に決まった。これ以上文句は言わせない。これからも彼女のまぶしい活躍を期待するといい」
席に座って深呼吸をする。数分前のことが未だに信じられない。周りの社員たちがざわめく中、佐藤君が息を切らして走ってきた。
「峯野しゅ…いや、峯野編集長!片付け終わりました!」
「あ、佐藤君…。ありがとう、わざわざ片付けまでしてくれて」
「いやいや、これくらいなんでもないっす!せっかくなら綺麗な部屋に入って貰いたい俺の勝手なので!」
話を聞いた佐藤くんは誰より早く編集長の部屋に飛び込み、そこにまだ残っていた大山の私物を片付けてくれた。彼曰く、スッキリしたところに彩響に入って欲しいとのこと。「そこまでしなくても…」と一応止めたが、佐藤くんは嬉しくてたまらないらしく、許可も貰わず行ってしまった。そして、彩響の私物の入ったダンボールも直接運んでくれた。
「すみません、消臭剤が無くて。まだタバコくさいっすけど、ちょっと我慢してください」
「いいえ、大丈夫だよ。本当にありがとう。佐藤くんには何回お礼を言っても足りないくらいだよ」
「そんな、俺は本当何もしてないっす。これは全部峯野しゅに…いや、峯野編集長が日頃頑張ってきたおかげたと俺は思ってるっす」
お人好しの佐藤君は、褒め言葉に照れた様子で手を振った。そうだ、決して誰もかもが自分を否定してきた訳ではない。佐藤君を見ていると、なんの疑いもなくそれが真実だと信じられる。
「峯野しゅ…いや、編集長」
「いいよ、気にしないで」
「いえいえ、編集長、そういえば…『あの方』には連絡しないんすか?」
「あ…」
そうだ、もう一人いたんだ。誰より強く、ずっと、自分を一人の『人間』として応援してくれた人――。
「うん、今すぐ電話します」