「俺は、今まで…それなりにの差別を受けてきたんだと思っていました。でもそれは甘かった…あなたの話を聞いて、自分がどれだけ男として有利な状況にいたのか、痛いほど思い知らされています」

「…寛一さんを責めている訳じゃないです」

「知ってます。しかし、俺も知らず知らずに、この世界をあなたが苦しむような状況にさせてきたのかも知れません。…そう考えると、苦しいです」


寛一さんの声は悲しくて、とても辛そうだった。本気で彩響のことを心配し、怒っていることが分かる。彼は確かに特別な存在だ…男とか女とか、そういう枠に囚われない、数少ない知人だと、はっきり言えるだろう。


「寛一さんは、私が今まで出会ってきた中で…珍しく、『人間』だと思った人です」

「人間…?」

「いい意味でも悪い意味でも、やはり人は皆人と接するときその人の性別を気にしますから。でも、寛一さんは初めて会ったその瞬間から、ずっと私を『人間』として見てくれた…それが、凄く嬉しかったです」


一回も「女だから」とか「女はこんなことが好きでしょう」とか、そんなことは言わない。彼はいつだって彩響に「人間」として接してくれた。それがとても嬉しい。


「…それは、彩響さんも一緒です。男の家政夫なんて、そんな感単に受け入れられるものじゃないですから」

「私も最初は嫌だったんです。でも、私も又少し変わったんだと思います」

「……」


寛一さんが立ち上がり、彩響の布団を首までかけてくれた。とても優しいそのしぐさに心が温かくなる。寛一さんが何かを言い出そうとして、一瞬やめて、結局は口を開けた。

「言い難い話、してくれてありがとうございます。でももうそろそろ寝てください。俺もここからは静かにします」

「…うん、ありがとう。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


薄い微笑を見せて、寛一さんは又さっきの場所に戻った。すっきりした気分で、やっと彩響も眠ることができた。


「……」


眠った彩響の顔を、寛一はじっと見つめる。そして苦笑いをした。

「…『人間』として、ね…」