大声が静かな夜道に響く。彩響が顔を上げて寛一を見上げた。涙で滲んだその先に、苦しそうな寛一さんがいた。寛一さんは深いため息をついて、自分のエプロンを彩響の頭にかけた。


「あなたは何も悪くない」

「……」

「この世の誰が何を言っても構いません。勝手に勘違いして、変な解釈して、あなたを苦しめるやつらはもう無視してください。あなたは優しくて強い人だ。今日の出来事で、その事実を全部投げ捨てたりしないでください」


そう言って、寛一さんは彩響の手を引っ張る。ふらふらと立ち上がった彼女の手をぎゅっと握り、彼が再び口を開けた。


「お願いですから、もう落ち着いてください」

「……」

「近くに病院があります。まずはそこで治療を受けましょう」


エプロンを被り、彩響は手で涙を拭いた。それを見た寛一さんが又何も言わずに前を見て歩く。少し距離をおいてその後ろを彩響も追いかけた。

絶対触れない、何も責めない。これが彼なりの優しさであることは知っている。しかし今の彩響は、この人に力強く抱きしめて欲しいと願っていた。