駅前の古い居酒屋。なじみのあるこの店は大学の頃よく通っていた店だ。扉を開けると、食欲をそそられる焼き鳥の良い匂いがする。にぎやかな客たちの間で誰かがこっちに向け手を振った。


「彩響、こっちこっち!」

彩響はそのテーブルに向かい、自分の名前を呼んでくれた人の反対側に座った。今日も相変わらずハードな勤務だったが、久しぶりに会う友人の顔ですっかり気持ちが軽くなるのを感じた。

理央(りお)、ごめんね、遅くなって」


結局仕事が終わったのは9時半くらいで、友人にはちょっとまってもらう形になった。しかし理央は笑いながら答えてくれた。


「いいよいいよ、仕事でしょ?一時期は同じ会社だったからよくわかっているよ」

「今日大丈夫だったの?旦那さんは?」

「今日は帰りが早かったから、亜沙美(あさみ)のこと任せてきたよ。普段全然育児していないから今ごろ大変だと思うよ」

「はは、そうなんだね」