EP.6
桜色を思わすほど高揚した頬を、下に視線を向けることで隠した。
「ちょい、沙紀。なんでなんも話さんで下向いてんの。
まぁこの時間に自転車乗ってんだから遅刻か。そりゃそうだ。」
質問して、自己完結する彼女は、親友。
――田辺 頼葉――(たなべ らいは)
時に清楚な女の子。
時にギャルの女の子。
気分によって服装を変え、髪形を変え、自分をとりつくる。
でも、中身は変わらない。
ただひたすらに優しく、決して相手を侮辱しない。
今日は清楚な女の子の気分のようだ。
「あ、ごめんごめん。遅刻よ。ご飯食べてたら九時過ぎてたわ。」
「そゆことね。ところでなんで顔赤いん?今日そんなあつい?」
「自転車めちゃめちゃ漕いだからかな――。」
私は、手をパタパタして仰いだ。
「あ、沙紀。おはよ!」
「おはよ。頼葉。」
頼葉はどんなことがあっても挨拶を忘れない。
どれだけ話し込んだ後でも、何時に会っても、必ず。
「あ、ついでに春斗もおはよ。」
「はぁ?ついでってなんだよ。おはよ。」
「なにその言いたいこと言うけど、一応挨拶されたし挨拶しよーと思ってしてみたけど日本語的に考えたらなんかしっくりこない感じの挨拶。」
えっ…と、頼葉もちょっと、日本語。苦手…かな…?
校門まで徒歩数十歩の距離を自転車を降り、頼葉に合わせる形で歩いた。
――南沢北東高校――
ここまできたら西も入れてほしいよなっていう会話が各所から聞こえてきそうな私たちの通う学校。
校門からは――歩む道――と命名された歩行空間の中心に丸い円を描く形で桜が植えられている。
私と春斗は左側に位置する駐輪場に自転車を止め、頼葉の待つ入口へと足を進めた。