EP.5

 学校までは、自転車を使っておよそ15分。

 通学路には、春を告げる桜の木が等間隔で植えられ、もうすぐ見頃を終える。

 自転車を飛ばして、まっすぐ進む私たちの髪は、いつも二、三枚、桜の花を連れていた。

 朝ごはんを食べない日は、この桜並木を抜けた先にある、コンビニで、腹の虫を抑制するための非常食を買っている。

 けど、今日はその心配もない。

 「春斗ー。お腹いっぱいだよー。もう少しゆっくり行こうよ。」

 「なに言ってんのよ。ただでさえ遅刻してんだから。しかも沙紀に合わせていつもよりゆっくり漕いであげてんだわ。」

 え。そうなの?

 「いや、早い!もっと!ゆっくり!プリーズ!」

 「なんでお前が学年トップにいるのかわけわかんねーわ。」

 春斗は優しく笑って、そう言った。
 左後方で横顔を視線に入れてしまった私は、つい声が溢れた。

 「…………きれい。」

 「ん?きれい?なにが?」

 ああぁあぁぁぁぁ。聞かれた。ごまかさんと!!

 「い、いや桜がね。ほら見てよ!あたり一面桜だらけー………。」

 「寝ぼけてんの?桜並木なんてとっくに過ぎてんぞー。」

 「あはは、いやそうでやした。すまんすまん。」

 ごま…かせた…かな…?

 「で、きれいってなによ。」

 ああああぁあぁぁぁぁ。

 「きれい?なんのこと?ちょっとなにいってるかわかんない。」

 「なにをごまかしてんの。さっきはっきり言ってたやん。
  しかも、それで桜が――って自分で言ってたよね?」

 ごまかすのに必死だけど、こういう時、春斗は容赦ない。

 「いや、言ってない。ワタシワカラナイネ。」

 「はい。言うまで無視しまーす。」

 「え。ちょっと待ってよ。なんでそーなんの!」

 「………………。」

 「うわ、やばこの男。モテないわー。モテない。これじゃモテない。こんな性格じゃ寄ってくるものも寄ってこないわ。いやだねー。女子にばっか話させて。」

 
 そういえばだけど、私もこうなったら容赦ない。


 「お、おまえっ。それは関係ないだろ!」

 「あ、喋った。喋る知恵あったんだ。脳みそまで卵焼きに変わったんだと思ってたわ。」

 「そんな脳みそが変化するほど卵焼きなんて食べてませんーー。」

 「はぁ?私の卵焼き全部食べたくせに何言ってんの。」

 
 幼馴染という存在はなんでこうも、気恥ずかしいことで喧嘩するのか。
 一般的に考えて、朝ごはんを一緒に食べてくるなんてものは…………。

 
 罵声に罵声を浴びせ、ちょうど喉が渇いた時、学校の門が視界に入った。



 「あ。沙紀ーー!!沙紀も遅刻ーーー?」