まさかあの人が私を捨てるなんて……!!


暗く小さな部屋の中、私は歯を食いしばった。


外は雨が降っていて小さな雨粒が部屋の中まで濡らし始めた。


少し湿ってきた部屋の中、私はあなたとの思い出に記憶をはせた。


あなたはいつも私に優しく、丁寧に扱ってくれていた。


世間を知らず、まるで籠の中の鳥だった私に沢山のことを教えてくれた。


あなたは私に向かって話をしてくれていたわけではなかったのかもしれない。


でも、指先で私に触れながらこの街の歴史などを語るあなたの顔はとても楽しそうで、私はその時間がとても好きだった。


この街は昔賑わっていて多くの観光客に恵まれ、観光名所として歴史の教科書にも出てくる武将がいたこと。


あなたは現役時代、その武将の格好をしてお客さんを楽しませたのだと、言っていた。


私は1度でいいからその姿を見せてもらいたいと思つていた。


でも、その願いは届かなかった。


かすかな光が差し込む部屋で、私は今1人取り残されてしまった。


頼れる友人もまわりにはおらず、私1人ではどうしようもできない。


思わず溢れでそうになる涙をグッとこらえ、私は光を睨み付ける。


きっと、あの人は戻って来てくれる。


あの人には、私が必要なはずだと、私は自身をもって言い切る事ができた。


だって、あの人にとって私のような存在の子はたくさんいたのだから。


あの人はその事を隠すつもりなど、なかつたし、私もその中で自分か、一番優秀だという事がわかっていた。


だからと言つて、私は他の子を見下すような態度はとらない。


私より劣る子も確かにいるけれど、その子はその子でちゃんと自分の役目をはたしていると思う。


それなのに……。


あ、ダメだ。


また泣そきうになった時、誰かの気配を部屋の外に感じた。


あなただろうか!?


パッと顔をあげ、私は期待に胸を膨らませる。


しかし……。


ゴトっと鈍い音がした後部屋に入つてきた指は、見覚えのない指輪をはめていた。


すぐに身構えるものの、私は無カ。


その指先で簡単に外へと引きずり出されてしまった。


全く知らない男が私の顔を見るなり、ニヤリとゆがんだ。


「ラッキー! 五百円玉だ!」


嬉しそうにそう言い、私をポケットへねじ込んだ。


今度のご主人は少し乱暴なようで、私は軽くため息をついた。