警察署の中、ひときわ騒がしい男が1人の警官に掴みかかっている。


「お願いだ! 俺の話を聞いてくれ!!」


真っ白な髪がずいぶんと老けこんで見える男だが、顔のシワはそれほど刻まれておらず、まだ若いのだということが見てとれる。


警官は男を強引にひきはがし「さっきから何度も聞いているじゃないですか」と、ため息混じりに返事をした。


「将棋だ! 将棋する夢を見たんだ!!」


「はいはい。駅で将棋を打ったんでしょう? それがどうしたんですか」


「これは予知夢なんだ! 俺は昔から予知夢を見るときがある!」


「将棋くらい、いくらでも打てばいいですよ? ただし、人の迷惑のかからない場所でお願いしますね?」


警官はそう言い、男の肩を軽くたたくと他の勤務へと戻って行く。


「違う! 違うんだ!! この夢の意味は……!!!」


男の叫び声は、他の誰にも届かなかった。






その数時間後、警官は見周りのため2人体制でパトカーで駅周辺を回っていた。


「そういえば、今朝変な男が署に来たんだよ」


「あぁ。駅で将棋がなんとかって言ってたやつだろ? 季節の変わり目だからな、木の芽立ちっていうだろ」


「そうだな。あの男、妙な行動に出なきゃいいんだけど」


そう言って笑った瞬間、駅から大きな悲鳴が聞こえてきて警官はパトカーを停止させた。


「なんだ!?」


「1人や2人の悲鳴じゃなかったぞ」


そう言いながら慌てて駅構内へと入っていくと、エスカレーターの周辺に人だかりができていた。


「一体、なにが起こったんですか?」


すべてを目撃したのであろう、青ざめた顔をしている女性に、警官が声をかけた。


「い、今……突然、エスカレーターが停止して、乗っていた人たちが、全員将棋倒しに……」


その言葉に、警官2人は目を見合わせたのだった。