「結局のところさ、寿命なのよ。寿命」
築20年のボロアパート。
6畳一間の一室で、あたしはそう呟いた。
精神科で処方された青い楕円形の薬を口に入れ、ぽりぽりとラムネ菓子のように噛み砕く。
苦い味が口いっぱいに広がり、粉になったソレはなかなか喉を通り過ぎなかった。
「寿命・・・・・・ねぇ」
リストカット仲間の彼はそう呟き、青い薬を一錠手のひらで転がした。
「薬、やる?」
「いや、いい。依存しそうで怖いから」
そう言い、再びカッターナイフに手を伸ばす。
男の手首にはさっきつけたばかりのリスカ跡が生生しく口を開いている。
「それも十分依存じゃん」
「で、さっきの話」
「え? なんだっけ? あぁ、寿命の話ね。あたしね、リストカットしすぎて気絶したり、大量服薬で1日目がさめなかったりしたこと、あるんだ」
「へぇ?」
「でも、死ななかった。世間のみんなはさ、死ぬ気がないだとか、勇気がないだとか言うけれど、そういう問題じゃなくて、結局は寿命だと思うんだよね」
あたしはそう話しながら、青い薬を小さなすりこぎですり潰し、粉状にした。
さらさらにになった粉末を半分ほどティッシュに乗せ、男へ差し出した。
「これ、どうするんだ?」
「ストローで吸う」
あたしはそう答え、男にストローを差し出した。
男はあたしからストローを受け取り、戸惑ったようにこちらを見つめた。
「スニッフ。最初は幻覚みたりするけど、大丈夫、あたしがついてるから」
そういうと、男はとまどいつつもストローを鼻に近づけた。
「鼻に入ったときに痛いけど、我慢するのよ?」
そう忠告したあと、男は勢いよく粉末を吸い込んだ。
「うっ・・・・・・」
突然むせ返る男。
「勢いつけすぎ、喉に入ったんでしょ」
ケラケラ笑ってみていると、男は突然うつろな表情になる。
うろうろと黒目だけがひっきりなしに動き回り、落ち着かない。
呼吸も乱れ、何か恐ろしいものから逃れるように両手をいっぱいに伸ばしてきた。
あたしも、最初は恐ろしい幻覚だった。
だけどそれも次第になれていき、今では幻覚を見ることさえできなくなっていた。
「しばらくはこの薬で楽しめそうね」
そう、呟いたとき。
男が奇声をあげながら突然立ち上がった。
「え、ちょっと!」
この薬にしては効き目が強く出たのだろうか、男がそのまま外へ出てしまったので、あたしは
慌ててそのあとを追った。
道路の中央を、まるでダンスするようにくるくると陽気に踊りながら進んでいくのが目に入る。
「待って!! 危ないって!!」
夜といえど大通りの車の数は多い。
あたしは男を止めるため、咄嗟に道路に出ていた。
響き渡るブレーキ音。
痛みはなかった。
体がフワリと空中を舞う。
視界が……途切れる。
交通事故で死んだ彼女の遺影を見なている男がいた。
「よかったじゃん、やっと寿命がきて」
そう言い、慣れた手つきで青い錠剤をのみ込んだのだった。
築20年のボロアパート。
6畳一間の一室で、あたしはそう呟いた。
精神科で処方された青い楕円形の薬を口に入れ、ぽりぽりとラムネ菓子のように噛み砕く。
苦い味が口いっぱいに広がり、粉になったソレはなかなか喉を通り過ぎなかった。
「寿命・・・・・・ねぇ」
リストカット仲間の彼はそう呟き、青い薬を一錠手のひらで転がした。
「薬、やる?」
「いや、いい。依存しそうで怖いから」
そう言い、再びカッターナイフに手を伸ばす。
男の手首にはさっきつけたばかりのリスカ跡が生生しく口を開いている。
「それも十分依存じゃん」
「で、さっきの話」
「え? なんだっけ? あぁ、寿命の話ね。あたしね、リストカットしすぎて気絶したり、大量服薬で1日目がさめなかったりしたこと、あるんだ」
「へぇ?」
「でも、死ななかった。世間のみんなはさ、死ぬ気がないだとか、勇気がないだとか言うけれど、そういう問題じゃなくて、結局は寿命だと思うんだよね」
あたしはそう話しながら、青い薬を小さなすりこぎですり潰し、粉状にした。
さらさらにになった粉末を半分ほどティッシュに乗せ、男へ差し出した。
「これ、どうするんだ?」
「ストローで吸う」
あたしはそう答え、男にストローを差し出した。
男はあたしからストローを受け取り、戸惑ったようにこちらを見つめた。
「スニッフ。最初は幻覚みたりするけど、大丈夫、あたしがついてるから」
そういうと、男はとまどいつつもストローを鼻に近づけた。
「鼻に入ったときに痛いけど、我慢するのよ?」
そう忠告したあと、男は勢いよく粉末を吸い込んだ。
「うっ・・・・・・」
突然むせ返る男。
「勢いつけすぎ、喉に入ったんでしょ」
ケラケラ笑ってみていると、男は突然うつろな表情になる。
うろうろと黒目だけがひっきりなしに動き回り、落ち着かない。
呼吸も乱れ、何か恐ろしいものから逃れるように両手をいっぱいに伸ばしてきた。
あたしも、最初は恐ろしい幻覚だった。
だけどそれも次第になれていき、今では幻覚を見ることさえできなくなっていた。
「しばらくはこの薬で楽しめそうね」
そう、呟いたとき。
男が奇声をあげながら突然立ち上がった。
「え、ちょっと!」
この薬にしては効き目が強く出たのだろうか、男がそのまま外へ出てしまったので、あたしは
慌ててそのあとを追った。
道路の中央を、まるでダンスするようにくるくると陽気に踊りながら進んでいくのが目に入る。
「待って!! 危ないって!!」
夜といえど大通りの車の数は多い。
あたしは男を止めるため、咄嗟に道路に出ていた。
響き渡るブレーキ音。
痛みはなかった。
体がフワリと空中を舞う。
視界が……途切れる。
交通事故で死んだ彼女の遺影を見なている男がいた。
「よかったじゃん、やっと寿命がきて」
そう言い、慣れた手つきで青い錠剤をのみ込んだのだった。