「そこからあっという間でしたね」

「敬語」

「あ、ごめん・・・」

ホテルから事務所の屋敷に帰る車の中で二人きりになった瑠璃と未蘭はなんとなく二人の出会いを思い出していた。

「極道だって言うことも、一番上の人なんだなって言うのもわかってたけど。まさかいきなり嫁に来いなんて言われるとは思わなかったよ」

「そうか?」

未蘭は高級車の後部座席で瑠璃に肩を回しながら意外そうに声を高くした。

「人を思いやる優しい気持ちと、俺の刺青や状況を見てもびびらない度胸は珍しかったしな」

「・・・ふふ、それがもう二年前かぁ」

「その女が『組の縄張りで好き勝手している奴らを駆除しましょう』と言い出すとはな。しかもこんな囮になるような策を言ってきたときは流石に俺もびびったぞ」

屋敷のガレージに停まった車の中で、未蘭は運転手を先に下ろして二人きりになった瑠璃を見つめながら笑った。

「思った以上にいい女で俺も驚いてるよ」

「ふふ、そんな、恥ずかしいよ」

頭を撫でられると瑠璃は照れ臭そうに赤くなって顔を背けるのだが、未蘭は瑠璃の顎を捕まえて自分以外を見られない様に固定した。

「無事あいつらも処分できたし言うことなし。と言いたいところだが」

「・・・えっ?」

「囮につかったのは俺の大切な女だ。それを理解しているか?」

「・・・・ごめんなさい」

瑠璃も主人となった未蘭のために何かしたいと焦っていたことは否めない。

だから素直に謝ったのだが未蘭は顎を掴む力を緩めてはくれなかった。

「謝ってもあんな野郎に触られた事実は消えない」

「・・・・」

「軽々しく俺以外の男に触られてんじゃねぇ。これは、俺のものだろ?」

「・・・・あ、はい・・・っ」

ぎゅっと目を閉じた瑠璃は未蘭の顔が近づいている事実を認識するだけで抗うことの出来ない羞恥と鼓動の高鳴りに襲われてしまう。

「だったら、これからまたずっと教え込んでやるからな」

瑠璃は耳元で囁いてきた未蘭の声に浮かされながら、今が人生で一番幸福で、選択は間違っていなかったのだと、彼の腕の中で実感するのだった。