「篤の母親からは、篤には本当の事を言うなと私は言われているから。
だから、篤ではなくて、君に話した。
君から、篤に本当の事を話して欲しくて。
篤の母親は、そうやって不器用な女だったけど、本当に息子の篤の事を思っていて。
このまま篤に恨まれたままだと、亡くなった彼女も可哀想で」


多分、篤さんのお母さんは、
この人の事も本当に好きだったんだろうな。


この人に迷惑をかけたくなくて、
一度はそうやって妊娠を隠して、この人の前から消えたんじゃないかと、思った。


「でも、篤には金で息子を売ったって事になっているから。
その為に、それなりのいい病院や病室を用意してって、
彼女にはけっこうな金額を使ったけど。
その辺りも、けっこう彼女らしいけども」


そう会長は笑っていて、会った事のない篤さんのその母親が、どんな人かなんとなく分かった。


現に篤さんがそうであったように、
とんでもない母親なんだけど、憎めない感じの人なのだろうな。



「うちの妻も私が言うのもあれなんだが、気立ての良い女だし。
娘達も、篤に懐いていて。
正月にでも、一度篤と一緒にうちに遊びにおいで」


そう笑いかけられて、頷いた。


もう、先程みたいに緊張はしていなかった。


「後、梢さんは昔から篤と知り合いなんだよね?」


「あ、はい。兄が昔、篤さんと仲良くて」


「篤には以前から会社の女性には手を出すなと言っていて。
梢さんと結婚すると報告を受けた時にもそれでその事を咎めたんだ。
そうしたら、梢さんとは会社だけではなく昔からの知り合いだから、それはギリオッケーだろ?って。篤が」

そう言って笑うその会長の顔は、本当に篤さんにそっくりで、
なんだか、それがとても嬉しかった。