「あ、立ち話もあれだし、こっちに来て、座って」


そう会長は、私を手招きする。


その会長の目は私のお腹に向いている。



「あ、では。お言葉に甘えて」


よくよく考えると、私のお腹に居る子は、
この人の孫でもあるのだな。


私がソファーに座ると、その向かいに会長が座る。


それはけっこう距離があるのだけど、
本当に緊張する。


「社内で色々と噂が飛び交っていて、梢さんも色々と聞いてるとは思うけど。
篤の母親と出会ったのは、私がこの会社に入社したばかりの頃で」


そう話し出した会長を見ると、どこか懐かしそうに笑っている。


「彼女はホステスで。
私は、彼女の客だった」


そう言えば、以前篤さんにそう聞いていたな、と思う。


「そんな出会いだったけど、私は彼女を本気で好きだった。
向こうは分からないけど。
ただ、私はいつか親が決めた相手と結婚しないといけないと漠然と有ったし、
当時、彼女はシングルマザーで、流石に、結婚相手としては彼女を選べないと思っていたから。
そう言う意味では、私は遊びで篤の母親と関係を持っていた。
そして、彼女はある日突然、勤めていた店を辞めて、私の前から消えた」


何故、篤さんのお母さんは、そうやって突然姿を消したのだろうか?