会長室は、このベリトイの自社ビルの最上階の10階にある。



その部屋にたどり着く迄に、三つの扉を通った。


その度に、何人もの秘書らしき人達に、お疲れ様です、と挨拶をされた。


多分、その挨拶は、私ではなく私の隣のこの会長の秘書の男性へだと思うけど、私も一応挨拶を返した。



私を連れて、その部屋へと入ると。



「私は、これで失礼します」


と、その秘書の男性は、部屋から出て行った。


その広い部屋に、一人立っている中年の男性。


このベリトイの会長であり、篤さんの父親。


この人の事は今までネットの写真でしか見た事がなかったけど、
そのネットでの写真でも思ってはいたけど。


実物は、本当に篤さんにそっくりで、
目を見開くくらい驚いてしまった。


「わざわざ来て貰って悪かった。
梢さんが明日から産休に入ると、篤から前に聞いていたので、今日しかないと思って」


そう言って、固い表情を少し崩してくれた。


「えっと…。
はじめまして。川邊梢です。
その、挨拶するのが遅くなってすみません」


「いやいや、こちらこそ申し訳ない。
一度、梢さんには篤の父親として、ちゃんと挨拶しないとと思っていたのだけど。
篤から聞いてるとは思うけど、あいつの父親としてはまだ7年程の付き合いで。
だから、どこまで親として関わっていいのか分からなくて。
もしかしたら、篤が不在の時に、こうやって梢さんを呼んだ事も、知られたら、機嫌が悪くなるかもしれないな」


会長はそう苦笑していて。


今日、篤さんが不在だから、こうやって私が呼ばれたのだな、と思った。


もし篤さんが居たら、その呼び出しを邪魔したかもしれない。


そして、なんとなく、会長の方が篤さんに気を使っているのかな?と。