あの日、互いの幼少期の話から、中高時代に流行していたマンガの話など、初めて仕事以外の話をした。
こんなふうに自分の事を話したのは 面談の時以外なかったのではないか それくらい私たちはお互いに無関心すぎた。
すでにスマホの時計は3時を回っていた。もう終電で帰るという選択肢など消えており、4年もの間、何故こんなことを聞かずに今日まで来られたのか、と思うほど、たくさんのことを語り合った。

「この会社は楽しかったですか?」

社長がふと急に、こんな事を言ったのは、もう夜が明け始め、紫から赤紫のグラデーションが美しく広がる空になった時。すでに眠気のピークは消えていた。

「どうしたんですか?急に」
お酒の力もあったのか、横に座っていた社長の太腿に、自然とボディタッチができるまでになっていた。
「僕は、君に甘えすぎて、大学生活のほとんどを奪ってしまったと思ったんです」
「いきなりなんですか?」
「僕は、君にこの会社に来てもらえて良かった。本当に助かったんです」
「それなら、いいじゃないですか」
「でも、君にはもっと良い場所で、大学生活を楽しむチャンスがあったはずなのに、僕のせいで奪ってしまったんじゃ……」
私は、社長の顔に自分の顔を自然と近づけていた。
「私が好きで選んだことを、何故社長に否定されないといけないんですか」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあ良いじゃないですか」
そう言うと、これもお酒の力だろうか、自然と社長の体に抱きついていた。
社長が、私も好きな柔軟剤を使っていることを鼻腔で知り、体が熱くなった。
「私、社長と一緒に4年間過ごせたこと、本当に良かったと思ってます」
私がそう言うと、社長が私の体を力強く抱きしめてくれた。

その後は、少し歩いた先にある、社長の一人暮らしのアパートに一緒に行き、玄関先で無我夢中で体を互いに貪りあった。
人との距離を当たり前に取っていた私が、人と距離が全くないことの安心感と心地よさを知った。