もう一度、自分に納得させるように呟いた。

「遺言って言った方が良いかな?」
「やめてよ遺言だなんて。僕が絶対に助けてやるから」

奴は来年からハーバードの医学部に飛び級が決まったらしい。
ギフテッドというのは本当に恐ろしい。
普通に医学部に行くのでさえ大変なのに、この男は15歳で世界の最難関学府に迎えられるというのだから、心底羨ましい。
奴は、私が望んでも手に入れる事が叶わない全てを、その手に持っているのだ。
大学に行くお金も。
慕ってくれるたくさんの友人も。
そして、輝かしい将来も……。

「最後に一緒に過ごせる顔があんたでよかったよ」

もう、昔みたいに噛みつくこともない。
嫉妬という領域を等に越してしまった。
それどころかそんな彼が私の恋人でいてくれた事が、今は心から嬉しいと思えるのだ。
人生最期が間近というのは、脳に麻薬に似た成分でも分泌しているのだろうか。
彼の妬ましかったもの全てが、キラキラと輝いているのだ。
星屑が降り注ぐように。
短い一生の蛍があたたかい命の光を見せてくれるかのように。

「チワワみたいで安心する」

コンプレックスだとかつてぼやいた女顔についてのからかいも忘れない。
私は最後まで、私達の日常を貫きたいのだ。