「今まで有難うと、伝えて貰っても良いですか?」

この人にだから頼める。
私が直接言えば、いつもの様に軽口悪口で終わってしまう。
何度、私の事を想ってくれた人に「死ね」を言ってしまったのだろうか。
奴はその度に傷ついた……と言っていた。
つい言ってしまったのは理由があった。

死ね。
消えろ。

私がクラスメイト達から声をかけられたのは、これくらいしかなかった。
だからとっさの時に出てくるのはこれしかない。
他にどんな言葉をかけていいのか、私は知らない。

そんな私の事情など、奴には関係がない。
奴には、ギフテッドとして将来が既に約束されている。
私に興味を示したのも、きっと誰もが自分に好意を持つはずなのに、一切興味関心を持たなかったからだろう。
周囲と違う反応をする異性の事が気になるというのは、恋愛小説の王道パターンだ。
でなければ、どうしてこんな女の事を、完璧な男が心底惚れてくれるだろうか。

「あれ……」

もう、準備をしなくては。
ほとんどの入院グッズは、いつ何があっても良いようにと随分前に用意してあった。
夢の準備も出来上がった。
この夢が、死にゆく私の最後の希望だったのだ。
忘れてはいけない。
あの、病院での宣告の日の母の泣き叫ぶ姿を、忘れてはいけないのだ。
母への懺悔の気持ちだけをこれから胸に秘めて、残りを仕上げなくてはいけないのだから。

「山田さん、もう、この人抱えて……出て行ってもらえませんか」

一秒たりとも顔を見たくない。
同じ空気を吸っているのも嫌だ。
どんなに奇人変人でも誰からも愛される彼と、神様にすら見捨てられた私。
嫉妬から生まれた悪意しかなかった。
宣告された時に誓った、絶対に叶えたい「夢」の為だけに利用しただけのお付き合いだった。

いつか訪れるはずだと覚悟していたのに、いざその時になって、私は本当の意味で覚悟をしていなかったと、この瞬間思い知らされた。

「早く連れてってください!」
「ひどいよ」