なんの作戦もない。
けど、無意識に。
彼の名前を呼んで助けを求めていた。
ヒーローなんてそうそう、現れてくれるはずなんてないのに。
それでも、雲に覆われた月が姿を現した時。
やっぱり左和季君は本物のヒーローだなって思った。
だって。
「ーー誰の許可を得て小羽に触ってんだ?」
近づいてくるバイクのエンジン音が、夜の静寂に紛れるよう目の前で停まる。
バイクのライトで照らされ、眩しい。
目を細めた視界には、左和季君がいた。
「……っ!?さわき……っ」
私よりも男が先に震えた声で反応する。
バイクから降りた左和季君は、一直線にこっちに向かってくる。
男はさっきの私と同じように小刻みに震え、なんとか恐怖に耐えながら離してはくれない。