~第5章~彼のいない帰り道

これは私の、1番の思い出、帰り道。
彼がいなくなった帰り道はとても静かだった。
彼がいなくなって、一人で帰るしか方法がなかった。駅の下りのエスカレーターを通ったとき、となりの上りエスカレーターからきっとカップルであろう、ふたり組が、
喧嘩をしていた。彼女は彼氏のリュックを
バッと掴み、なんでよって、怒ってたっけ。
別れる寸前なのかな。通るのが気まずかった。
そして、駅を通ると、小さな子どもが
鳩に足踏みでバンッってやってたっけね。
これもまたもう、小学校の私みたい。
いじられてたのよね。私。
愛おしかったけど、少し鳩がかわいそうに見えたわ。でも、まだ5歳児、許せる範囲だな。とそう、思い出した。私は彼とイチャイチャ笑いながら帰ってた、あの、カレカノとほんとに真逆のように
好きってずっと言い合って、笑って、電車の中で
キスするくらいまでほんと、もう、今思い出せばアホみたい。あ、また彼のことを思い出してしまった。やっぱり、依存していたみたい。きっと私はそう思う。
昔の私に似合う花を彼が渡すとしたら、アムネジアじゃなくてきっと、なにか違う花だっただろう。ふと、そう言い、家の玄関のドアをそっと開けた。誰にもバレないくらい静かな音で。