「ねぇ、圭太君」

「何?」

 美涼は僕へと話し掛けているが、視線は車窓の外に向いている。

 真っ暗で何も見えない車窓の外。

 そのガラスに何やら考え込んでいる美涼の横顔が映っていた。

「……このまま二人でどこかに行けたら良いのにね」

 美涼がぽつりと独り言の様に呟く。

 しかし、電車は僕らの降りるべき駅へと近づいている。

 僕も美涼と同じ気持ちだった。この気持ちが美涼への恋だと知った途端、僕らは離れ離れになってしまう。

「そうだね」

 僕は一言、そう答えるしか出来なかった。

 本当は、まだたくさん美涼と話しをしたいし、一緒に過ごしていたい。

 でも、僕らはまだ中学生だ。

 とん……

 僕の肩に美涼が頭を預けてきた。

「ねぇ……しばらくこのままでいさせて頂戴」

 僕から美涼の顔は見えない。

 でも、美涼が泣いているのが分かった。

 小刻みに体を震わせ、声を抑えて、泣いているのが、僕に伝わってくる。

「ありがとう……本当にありがとう……」

 顔を上げずに俯いたまま小さな声で、僕にだけ聞こえるくらいの小さな声で美涼は言った。そして、僕の手を取ると自分の指を絡め、さらに反対側の手を握っている僕の手の甲へと重ねた。

「こんな私の我儘をたくさん……たくさん聞いてくれて……ありがとう」

 ぽたりぽたりと僕の手の甲へと美涼の涙が落ちていく。

 僕は小さな手を、白くて柔らかい美涼の小さな手をぎゅっと握りしめた。