八月五日。
加賀さんと約束している夏祭り当日。
僕は朝からそわそわして落ち着かず、自分の部屋やリビングを行ったり来たりしていた為、母親から鬱陶しいと言われる始末であった。
そんな落ち着かない気持ちで家の中にいると、余計にその事ばかり考えてしまうので、行くあてもないのに自転車に跨ると家を出た。
八月頭の夏真っ盛り。
午後三時でも日差しはとても強く、少し自転車を漕いだだけで、Tシャツがぐっしょりと濡れてしまう程の汗をかいている。
ふらふらと自転車に乗ってうろうろしていると、中学校の校庭が見える小高い丘に到着した。
校庭では、僕が今まで所属していたサッカー部の後輩達が練習をしている姿が見える。
僕は、木陰に腰を下ろすと、その練習風景をぼんやりと眺めている。
木陰はたくさんの汗をかいていた僕を癒してくれた。
空を眺めると、大きな入道雲がまるで雲同士で背比べをしているかの様に天高くそびえている。
僕はしばらく木陰でのんびりしていたが、ふと時計を見ると午後四時四十五分だった。
まさか、そんなに時間が経っていたなんて……
加賀さんとの約束の時間は午後六時。帰ってシャワーを浴びなきゃ……慌てて自転車に跨ると、僕は暑さも忘れる程に全力で漕ぎ、家路へと急いだ。
何とか無事にシャワーを浴びて着替えると、家から歩いて神社に行くのにちょうど良い時間となっていた。
僕は母親から夏祭りへ行くからと小遣いをもらうと、いそいそと神社に向け出発した。
待ち合わせをしていた鳥居前に着いたのは、午後六時の十分前。
鳥居前は、他の待ち合わせをしている人達や、これから夏祭りに向かう人達で溢れかえっている。
そんな中を僕はきょろきょろと加賀さんの姿を探した。
約束の時間じゃないから、まだ来てないのかな?
人混みをするするとかき分けながら鳥居前まで来た僕は、微笑みながら胸の辺りで小さく手を振る加賀さんに気付いた。
「久しぶりね、赤城君」
加賀さんが僕へと近付いてくる。加賀さんは夏祭りらしく浴衣を着ていた。それに髪型もいつもと違う。
また、いつもと違う加賀さんに僕はどきりとした。
「浴衣で来たんだ」
「えぇ、折角の夏祭りだから……ねぇ、どうかしら?」
加賀さんは軽く腕を曲げ、その場でくるりと回ってみせた。浴衣の袖が体の動きに合わせ、ひらりひらりと舞う。
どうかしら?
加賀さんが僕へ、浴衣の事を聞いているが分かる。
同年代の女子達が着る様な、明るい色でたくさんの花をあしらった可愛らしい浴衣ではなく、紺色の生地に朱色の金魚の柄、白い帯が映えている、どこか大人びた浴衣であった。
そして、髪型もいつもの一つ結びのお下げではなく、ふわりとしたアップスタイルで、同年代には見えないくらい、とても綺麗だった。
「……綺麗だ」
心の中で思っていた言葉が自然と口から飛び出していた。それに気づいた僕は顔が急激に火照って行くのが分かる。
「え……?」
僕の言葉が聞こえた加賀さんは驚いた様な表情になっている。
そして、僕へ背を向けた。俯いている。
やばい……キモかったかな。僕は自分の間抜けさが少し嫌になった。
「ありがとう……嬉しいわ」
加賀さんは小さな声でそう言うと、軽い足取りで神社の方へと歩き出した。
「紅い金魚柄はね……幸運を呼び込むんだって。本当にそうね」
僕が慌てて加賀さんを追いかけ横に並んだ。僕が隣に来た事を確認した加賀さんはぽつりとそう言うと楽しげに鼻歌を歌い始めた。
加賀さんと約束している夏祭り当日。
僕は朝からそわそわして落ち着かず、自分の部屋やリビングを行ったり来たりしていた為、母親から鬱陶しいと言われる始末であった。
そんな落ち着かない気持ちで家の中にいると、余計にその事ばかり考えてしまうので、行くあてもないのに自転車に跨ると家を出た。
八月頭の夏真っ盛り。
午後三時でも日差しはとても強く、少し自転車を漕いだだけで、Tシャツがぐっしょりと濡れてしまう程の汗をかいている。
ふらふらと自転車に乗ってうろうろしていると、中学校の校庭が見える小高い丘に到着した。
校庭では、僕が今まで所属していたサッカー部の後輩達が練習をしている姿が見える。
僕は、木陰に腰を下ろすと、その練習風景をぼんやりと眺めている。
木陰はたくさんの汗をかいていた僕を癒してくれた。
空を眺めると、大きな入道雲がまるで雲同士で背比べをしているかの様に天高くそびえている。
僕はしばらく木陰でのんびりしていたが、ふと時計を見ると午後四時四十五分だった。
まさか、そんなに時間が経っていたなんて……
加賀さんとの約束の時間は午後六時。帰ってシャワーを浴びなきゃ……慌てて自転車に跨ると、僕は暑さも忘れる程に全力で漕ぎ、家路へと急いだ。
何とか無事にシャワーを浴びて着替えると、家から歩いて神社に行くのにちょうど良い時間となっていた。
僕は母親から夏祭りへ行くからと小遣いをもらうと、いそいそと神社に向け出発した。
待ち合わせをしていた鳥居前に着いたのは、午後六時の十分前。
鳥居前は、他の待ち合わせをしている人達や、これから夏祭りに向かう人達で溢れかえっている。
そんな中を僕はきょろきょろと加賀さんの姿を探した。
約束の時間じゃないから、まだ来てないのかな?
人混みをするするとかき分けながら鳥居前まで来た僕は、微笑みながら胸の辺りで小さく手を振る加賀さんに気付いた。
「久しぶりね、赤城君」
加賀さんが僕へと近付いてくる。加賀さんは夏祭りらしく浴衣を着ていた。それに髪型もいつもと違う。
また、いつもと違う加賀さんに僕はどきりとした。
「浴衣で来たんだ」
「えぇ、折角の夏祭りだから……ねぇ、どうかしら?」
加賀さんは軽く腕を曲げ、その場でくるりと回ってみせた。浴衣の袖が体の動きに合わせ、ひらりひらりと舞う。
どうかしら?
加賀さんが僕へ、浴衣の事を聞いているが分かる。
同年代の女子達が着る様な、明るい色でたくさんの花をあしらった可愛らしい浴衣ではなく、紺色の生地に朱色の金魚の柄、白い帯が映えている、どこか大人びた浴衣であった。
そして、髪型もいつもの一つ結びのお下げではなく、ふわりとしたアップスタイルで、同年代には見えないくらい、とても綺麗だった。
「……綺麗だ」
心の中で思っていた言葉が自然と口から飛び出していた。それに気づいた僕は顔が急激に火照って行くのが分かる。
「え……?」
僕の言葉が聞こえた加賀さんは驚いた様な表情になっている。
そして、僕へ背を向けた。俯いている。
やばい……キモかったかな。僕は自分の間抜けさが少し嫌になった。
「ありがとう……嬉しいわ」
加賀さんは小さな声でそう言うと、軽い足取りで神社の方へと歩き出した。
「紅い金魚柄はね……幸運を呼び込むんだって。本当にそうね」
僕が慌てて加賀さんを追いかけ横に並んだ。僕が隣に来た事を確認した加賀さんはぽつりとそう言うと楽しげに鼻歌を歌い始めた。