あの日以来、加賀さんから旅についての話しは一切無かった。やっぱり、テレビか漫画の影響を受けての一時的な話題であったんだろう。

 しかし、一時的な話題であったかもしれないが、なんで僕なんだろう。確かに隣の席ではある。別に僕で無くても、バレーボール部の友達でも良かっただろうに。まぁ、一番は手っ取り早く隣の席の僕に、思いつきで話し掛けて来た線が濃厚だろう……そう、思う事にした。

 ちらりと隣の加賀さんを見る。

 ふんふんと鼻歌を歌いながらノートに向かって、携帯で調べ物をしながら何かを一所懸命書いている。授業の合間の休憩時間なのに。

 する事も無いのでぼやっと加賀さんを見ていると、その視線に気付いたのか、加賀さんが僕の方へちらりと視線を向けた。

 ばちりと目が合う。

 僕は慌てて目を逸らすと、にやっと笑った加賀さんがノートを閉じ携帯を鞄へと入れると、僕へずいっと顔を近付けた。

「何、赤城くん?」

 加賀さんの瞳が真っ直ぐに僕を見ている。僕はそれが少し恥ずかしく顔を逸らしたままであった。そんな僕の様子がおかしかったのか、加賀さんはまだ笑っている。

「ふふふっ、照れてるの?」

「なんで僕が照れなきゃいけないんだ?」

「じゃあ、なんで顔を逸らすの?」

 ぐうの音も出ない。

 別に僕は女子と喋る事に不慣れな訳では無い。普通に仲の良い女子も結構いるし、普段から話しもしている。だけど、あの『旅』の話し以来、何故だか加賀さんを意識してしまっている。

 だけど、これが好意からとかそんなんじゃないのはわかる。思いつきで話しをしただけだと思い込もうとしても、なんで僕なのか……それが気になってしまっただけなんだ。

 ぐるぐると頭の中でそんな事を考えている僕を、不思議そうな顔をして見ている加賀さんが、ふっと窓の外に視線を移した。

 先週末に梅雨も明け、窓から見える青い空にはこれでもかというくらいに太陽が自己主張をしている。

「そう言えば梅雨が明けたから赤城くん達、室内練習無くなっちゃったね」

「うん、体育館での筋トレ、まじできつかったから良かったよ」

「そっかぁ……でも、私は体育館で赤城くんを見れてたから良かったんだけどなぁ」

 ぼそっと呟く様に言った加賀さんの言葉が僕にはよく聞こえなかった。

「ごめん、よく聞こえなかったから……もう一度、言ってくれないかな?」

 僕が加賀さんへそう言ったが、加賀さんはへへっと笑うだけで何を言ったのかを教えてくれなかった。