────俊彦の報告を思い出す。
嬉しそうだったな、と。それに、少しばかり羨ましいと思うような感情を覚えた。少し照れたような幸せそうな顔。

そうか、俺は……羨ましいのか。手放しで、誰からも祝福されるそんな結婚が出来ることが、羨ましいのか。そうなると、秘書室の香坂さんは俊彦と結婚するために入社させたのか。

下世話な噂話も、全部が全部、嘘というわけでは無かったのか。

抜けるような白い肌に、艶やかな髪は恐らくカラーなどしていないだろう。大きな瞳はいつも伏し目がちで長い睫毛に縁取られていた。品のある子、なのだが……いつもゆるく結ばれた唇に、憂いを湛えたような瞳は、潤んだ様に見え、恐らく瞬きが人よりゆっくりなのだろう。そんな仕草もたよやかで……色っぽい。

噂をしていた、その男達の言葉を借りると、『何してもエロい』のだ。吐息にフェロモンが混じってるだとか、空気が桃色だとか、常務室であらぬことをしているのではないか、だとか。横を通っただけで勃つだとか……歩く18禁だとか。失礼極まりないものも含むと、到底褒め言葉とは言えたものではない表現もあり、少しどうかと嗜めたこともあった。

『シャツのボタンを全部開けてる女性より、ボタンを首元まで閉めてる香坂さんの方が目のやり場に困る』

という例えにはなんとなく理解が出来た。常務室で俊彦とそんなことをしているとは考えられないが、彼が彼女に惚れているという意味では、噂もまんざらではない。