「伊集院君のガードがないの、彼がお風呂入ってる時くらいだなと思って、速攻でお風呂出て勇気出してみたんだ。ハハ。伝えられただけよかったよ」

「紫音てそんなに恐れられてるのか……」

「花山さんに告白したい人なんてたくさんいるけど、彼の監視が凄すぎてね……」

上を見上げて遠い目をする湯町君。私に告白したい人がいるというのは無いと思うけど、とにかく紫音が一般生徒にうまく馴染めていないことだけは明確だ。

 今度、お友達作る講座でも開いてあげようかな……。なんか、心配だし……。

 なんて考えていると、湯町君が一歩だけ私の元へ近づいた。

「ごめん。最後に握手だけしてくれる? そしたら諦めるから」

「あっ、う、うん、ぜひ」

「ハハ、ぜひって。やっぱり面白いなあ、花山さん」

 紫音よりもずっと素直で明るくて優しそうな湯町君。紫音とタケゾー以外の男子と話したのは本当に久々だったので、私も少し緊張していたんだけれど、湯町君が普通にいい人でよかった。

 気持ちには答えられないけれど、彼に素敵な人が早く現れますように。そう願って握手をしたその瞬間――、湯町君が急に心臓を片手で押さえて息を荒くした。

「花山さん、なんか俺……っ、急に変に……」

「え、湯町君……! 大丈夫!?」

「花山さんっ……、やっぱり好きだ……!」

 突然豹変した湯町君が、私の体を強引に抱きしめてきた。

 しまった。触れ合った瞬間に、フェロモンが作用してしまったのかもしれない……!

 私は必死に抵抗するも、筋肉痛のせいで上手く体を動かせない。

 さっきまであんなに優しかった湯町君が、こんな風に変わってしまうなんて……。改めて、発情期の怖さを知った。

「湯町君! しっかりして、今山小屋まで運ぶからね……!」

「花山さん、可愛い……。俺のものにしたい……!」

「しょ、正気に戻って! 湯町君……! きゃっ」

 ドサッと地面に押し倒されて、私は事の重大さにようやく気づく。

 今、私、かなり危ない状況にいる。

 でも、これは私の体質が招いたことで、湯町君は悪くない。

 前に教室で襲われかけたこともフラッシュバックし、恐怖で体が動かなくなってきた。

 湯町君の唇が首筋を這い、恐怖心はどんどん煽られていく。

 どうしよう、どうすれば……。

 助けて、紫音……!