ひとまず待たせるわけにはいかないので、私は布団を捲って筋肉痛祭りの体に鞭を打つ。ぐっ、どこを動かしても痛い……。

 というか、寝る用のジャージにハーフパンツ姿という完全なだる着だけれど、これで向かってもいいのかな……?

 なんとか立ち上がると、かおりんが私に向かって手を振った。

「襲われないでよ。一応紫音様にも連絡入れといたら?」

「うーん、大丈夫だと思うけど……。一応、そうだね」

 スマホでパパッと紫音に『外に呼び出されたから行ってくるね』とメッセージを送った。

 湯町君、どんな顔だったっけ……。たしか坊主頭で背が高かったような……。なんてぼんやり思い出しながら、私は言われた通り外に向かった。


 外に出ると、そこにはカチンコチンに緊張した様子の、前髪重ための男子がいた。想像と全然違った。

「ゆ、湯町君、こんばんは。野球部の人だよね……?」

「いや、バスケ部だよ」

「うそ、ごめん!」

 私の中の湯町君、何ひとつ情報があっていない……。いったい誰と勘違いしていたんだろうか。

 さすが山の中なだけあって、夜になると外はかなり真っ暗で、山小屋の明かりが行き届いていないところは何も見えない。

 念のため、湯町君とは少し距離を取って話を聞いている。

 夜風にあたりながら気まずい沈黙に耐えていると、湯町君がついに口を開いた。

「あの、花山さんが伊集院君と番結ぶ関係だってことは分かってるんだけど、どうしても伝えておきたいことがあって……」

「は、はい」

「花山さん。えっと、好きです。入学式で一目惚れしてからずっと」

 カーッと顔を赤く染めながら小さな声で伝えてくれた湯町君。

 まさか、かおりんの言う通り本当に告白だったとは……。

 人生初の告白に頭がフリーズしながらも、私はどう断ろうか頭の中で言葉をぐるぐると考えていた。

「あ、あの、ありがとう。気持ちは嬉しいんだけど、ごめんね……」

 結局当たり障りのない言葉で素直に断ると、彼はとてもがっかりした顔をしてから、「そうだよね」と悲しそうに笑った。

 その笑顔を見て少し胸がちくりと痛んだけれど、下手に優しくしても失礼だから、これでよかったのだ。

 でも私、入学式は寝てた覚えしかないんだけど、いったいどこがいいと思ってくれたのか謎だ……。