「いやいや、今完全にフェロモンが関係してるでしょ……!」

「……半分ね」

 熱っぽい吐息を首筋に感じて、私はいよいよ本気でやばいと察する。

 これが発情期の力なのだろうか。とにかく、三条君に目を覚ましてほしい!

 私はよしと気合を入れると、三条君の足を思い切り踏んだ。

「痛(い)っ……!」

「ごめん三条君、紫音のことこれ以上怒らせたくないから! しばらくそこで休んでてー!」

 三条君は足を押さえてガクッと座り込んでいる。

 私は申し訳ないと思いつつも、走ってその場を逃げ去った。

 こうでもしないと、身の安全は守れない、ということだ。いつも紫音に守ってもらうわけにもいかないんだから。

 私は疲労し切った体に鞭を打って、走って目標地点の山小屋を目指した。

 そうして、途中からまた紫音と合流し、私たちはなんとか今日の登山を終えたのだ。




「あ、足が、棒のようだよ……かおりん……」

「お、同じく……」

 女子部屋にて。お風呂から出た女子生徒たちは、ふくらはぎの筋肉痛と戦いながら一歩も動けずにいた。

 年季の入った山小屋で、十人ほど寝られる和室に押し込まれた私たちは、敷布団を早々に広げて大の字になって体力を回復させている。

 何人かの体力が有り余った女子は男子部屋に遊びに行ったり、彼氏に会いに行ったりしているけれど、私とかおりんは屍のように動いていない。

「かおりん、これで明日は山頂まで行ってから下山するんだよね……。そんな体力、残ってる……?」

「無理。タケゾーなんて生まれたての子鹿みたいに足ガクガクさせてたよ」

 お互いに天井を見つめながらそんな会話をしていると、突然入り口付近にいた女子生徒から名前を呼ばれた。

「花山ちゃーん、なんか隣のクラスの湯町君が呼んでるよ」

「え……?」

「外に来て欲しいって。待ってるってー」

 思わず誰?と言いそうになったけれど、なんとなく野球部にいたような気がする男の子の顔が、ぼんやりと浮かんだ。

 困惑した顔で首だけ傾けてかおりんを見ると、彼女はニヤリと笑ってなぜか楽しそうにしている。

「何の話だろ……。全く心当たりがない」

「そんなの告白イベントに決まってんじゃーん」

「かおりんなんでそんなに楽しそうなの?」