「ご、ごめんなさい……暑くて」

「ハア……まじおかしくなりそう」

 紫音は本当に辛そうに顔を歪めていて、熱っぽいため息をつく。

 なんだかその余裕のない表情に、なぜかドキッとしてしまって、私が誘惑されてどうするんだと気を正す。

「ごめん千帆、ちょっと離れて休む。すぐ追いかける」

「わ、分かった。無理しないでね……?」

 紫音と少し距離を取って歩くことにした私は、紫音のことを心配に思いながらも、一歩一歩足を進める。

 紫音、私のそばにいるとやっぱりすごく辛そう。私を守るために無理してそばにいてくれてるんだろうけど、申し訳ないな……。

 ぐるぐると色んなことを考えながら歩いていると、ひょいとどこからか三条君が現れた。そして、とんでもない発言をしてきた。

「ごめん千帆ちゃん、キスだけしていい?」

「何を言い出すの?」

「チッ、勢いで行けるかなと思ったのに」

 黒い言葉をつぶやく三条君に、私は思わず苦笑いを浮かべる。

 やっぱり侮れないなあ、三条君……。

 サッと距離を取って三歩ほど離れると、三条君は「あ、少しは学習したんだー?」と煽ってくる。

「話しかけてるとこ、あの番犬君に見られたら、俺殺されるね」

「紫音と対等にいれるのは、ほんと三条君くらいだよ……」

 あははと苦笑しながら返すと、彼は突然とんでもないことを言ってきた。

「ねぇ、千帆ちゃんて、すごく甘い香りがするんだよね、発情期関わらず。自分で気づいてる?」

「え? 甘い香り?」

「うん、ほら、この辺りから……」

 突然グイッとジャージの襟に人差し指を引っ掛けられ、首の後ろに顔を寄せて来る三条君。

 私は思わずバランスを崩し、三条君の胸に背中からダイブしそうになる。

「わっ、いきなり引っ張らないで! びっくりするから」

「あー、マジ、何この匂い。今すぐ襲いたくなる……」

「ちょっと、気を確かにだよ! 三条君!」

 顔を首に押し付けて来る三条君の額に手を当て、ギギッと押し返すけれど、力が強すぎてびくともしない。

 こんなところ三条君のファンに見られたら大変な騒ぎになるはずだけれど、幸いにもみんな疲労困憊の状態で他人には目がいっていない様子だ。

「千帆ちゃん……、もし、フェロモンとか関係なく、興味湧いてきたって言ったらどうする?」