すでに虚な目をし始めた生徒たちと一緒に、私も死んだ目で重たくなった足をなんとか引きずり歩いていた。

 それなのに、私の隣にいる幼なじみは、相変わらずケロッとした顔をしていらっしゃる……。

「し、紫音の体力、バグってない……? ハア、ハア……」

「傾斜はそんなにないだろ。大袈裟だな」

「周り見てみて!? みんなゾンビになってる! おかしいのは紫音と三条君だけ!」

 思わず白目になってツッコミを入れると、紫音は「運動不足だろ」と言ってひょいひょい登っていく。

 し、信じられない……。あの人、人間じゃない……。

「紫音、もう無理! 水飲みたいから少し休む。暑いし、上着も脱ぎたい」

 そう言って、私はふらふらと木の幹に座り込んだ。紫音は仕方ないなと言ってそばに立ち止まり、横で私が休憩を終えるのを待っている。

 ジャージの上着を脱いで、白いTシャツ姿になった私は、パタパタと体の中に風を送る。

 あー、涼しいー。ちょっとだけど、生き返る思いだ。

 水を飲みながら襟元を掴んで体に空気を送り続けていると、目の前を歩いてきた男子生徒たちとパチッと目が合った。

「待って、花山さん、なんか色気やばくね……?」

「おい、いつも可愛いけど、今日はなんか、艶っぽく見えるっていうか……」

「お前、今度こそ話しかけてこいよ!」

 コソコソと不審な会話が微かに聞こえて来るのだけど、全部は聞き取れなかった。

 普段全く話したこともないクラスメイトなので、もしかしたらフェロモンが作用してしまっているのかもしれない……。

 身の危険を少し感じた私は、サッと立ち上がろうとした。

 その時、頭上でドン!ッと大きな音がして、私は思わず再び座り込む。

 そーっと視線を上げると、そこには木を片手で叩いて、男子生徒を鬼のような顔で睨みつけている紫音がいた。

「おい、誰にどう話しかけるって?」

「ひっ……!」

 低い声で脅された男子生徒達は、一気に顔を青ざめさせて全速力で山を登っていった。

 紫音の凄みは、怖すぎるよ……。かわいそうに……。
 
 逃げゆく彼らを茫然と見ていると、紫音がため息をつきながら私のそばにやってきて、脱ぎかけていたジャージをもう一度着せて、しかもチャックを口元まで上げてきた。

「お前、無駄にフェロモン撒き散らしてんなよ」