集合場所のグラウンドでようやく安堵のため息をつく。しかし紫音は、涼しい顔をしていて、全く疲れた様子もない。

 タケゾーもかおりんも、紫音がいると少し緊張するのか、チラチラと彼に目配せしている。

 いつも騒がしい二人なのに、紫音の前だとこんなに大人しくなるのか……。

 紫音は涼しい顔を崩さずに、タケゾーとかおりんにあるお願いごとをした。

「ごめん。もし千帆に変な気起こしてる生徒見つけたら、速攻教えてくれる? ちょっと事情があって」

「はっ! 分かりました!」

 二人はなぜか声を揃えて敬礼のポーズをしている。色々と疑問を抱いたりはしないのだろうか……。

 そしてタケゾーは一応生物学上異性のはずなんだけど、全く私のフェロモンは作用していないようで安心した。

 オスになったタケゾーなんて、全く想像もつかないし……。

「タケゾー、私のこと見てドキドキしたりする?」

「ちょっ、急に何キモいこと言ってんの? 紫音様見てた方がドキドキするわっ」

「だよね。よかった~」

 タケゾーの発言に紫音は微妙な顔をしていたけれど、どうやら異性全員がフェロモンに反応するわけではないみたい。

 元々性欲が強かったり、恋愛対象として好意がある人だったりが、反応しやすいんだとか……。

 チラッと紫音を見上げると、目があった瞬間、サッと目を逸らされる。

 ガーンと効果音が鳴るほど傷ついたけど、フェロモンに当てられるのを避けるためには仕方ない。

「ようし、全員集まったな。では、これから登山イベント始めます。順次バスに乗り込むようにー」

 ピーと笛が一度鳴って、ついに行事がスタートした。

 私たちはバスに乗り込み、現地の山へと向かう。そこそこの高さがある山で、危険な道はないけれど、山頂に行くまであまり景色も変わらず精神との戦いになってくる……と、先輩たちから聞いている。

 どうか、何事もなく終わりますように!

 そう願って、私はバスに揺られた。

 バスの中で、ひたすらタケゾーが推しの韓国アイドルの話をしてくれたおかげで、私は車中でぐっすり眠ることができた。





 完全に、舐めていた。山の偉大さを。

 歩き始めてから二時間は経っているはずなのに、まだまだ山小屋は遠い。