すぐさまツッコミを入れたけれど、紫音は私がそばに寄っただけで、警戒心を剥き出しにしている。

 なんだかバイ菌扱いされているようで傷つく……と思ったけれど、紫音なりに気を遣って離れてくれているんだろう。

 一応、抑制剤は多めに飲んできたんだけれど、それでもαには強烈な作用があるみたいだ。

 紫音が、なんだか高熱が出ているときみたいに辛そうで、私は思わず斜め上の発言をしてしまった。

「紫音、辛かったら、私のこと触っていいんだよ?」

「ぶっ」

 思い切り吹き出す紫音に、私は心配した口調で補足をする。

「私が発情を煽ってるから紫音は辛いんだよね? 触れ合ってマシになるなら、いつでもハグどうぞ!」

「バカか」

 はい!と手を広げて伝えると、バカの「バ」を思い切り強調して暴言を吐かれた。

 紫音は顔を真っ赤にしたまま、結構本気で怒っている。

 それから、背後にあった塀にドンッと手を突かれて、真剣な口調で囁かれた。

「ハグだけで止まるわけないだろ。俺がお前を好きだってこと、ちゃんと自覚しろ」

「う、うん、ごめんね……?」
 
 これが壁ドンってやつか……と思いながら謝ると、ちゃんと聞いてるのかとさらに怒られた。

 こんなにキレられながら告白されることってある……?

 そんな会話をしているうちに、集合時間に遅れそうになっていることに気づいた。

「は! 紫音! 遅刻しちゃうよ!」

「お前がバカなこと言うせいだろ。走るぞ」

「わーん、体力温存しておきたかったのにー」

 私は文句を言いつつも、紫音に腕を引かれるがままに走った。

 登山行事の予定は、朝から夜まで山登りをして、山頂に着いたらログハウスに宿泊するという流れだ。

 発情期は今日から始まって約一週間ほど続く。

 生理みたいなものとして付き合っていくしかないのだろうと、なんとなくイメージしていた。





「あ! 来た! 千帆、あんた超ギリギリじゃないの」

 学校にぜぇはぁと息切れしながら到着すると、かおりんが私を見つけて手を上げた。

 かおりんのそばにいたタケゾーも、「遅刻したら重りつけて歩かされるらしいよお。危なかったね」と脅してくる。

「ま、間に合ってよかった~!」