紫音が地声より数倍低い声で、私の言葉を遮って冷たく言い放つ。

 三条君は頭を傾げながら階段を下りていった。

 その様子を不思議に思い眺めていると、ぐっと後ろから両手で強く抱きしめられる。

「わっ、紫音……?」

「お前、ほんっと、バカ」

「えっ、急な悪口⁉︎」

 後ろから顎をぐいっと掴まれて、私は強制的に紫音の顔を見上げる形になる。

 紫音の美しい顔面が目の前に現れて、私は思考停止する。

 彼はなぜか不機嫌度マックスになっていて、何を言っても宥められそうにない空気感だ。

 待って、もしかして、キスされる……?

「千帆は俺のものだって思いたいのに、お前は俺のこと不安にさせる天才だな」

「ちょ、紫音、待っ……」

「まあ、いいや。逆に、千帆に自覚してもらうかな。俺はお前のものだってこと」

「ど、どういうこと……?」

「俺の心も体も千帆のためだけにあるってこと」

「んっ……!」

 真剣な顔でそう囁かれてから、急に大人なキスをされた。

 私は酸欠状態寸前で、紫音の腕をどんどんと叩く。けれど、びくともしない。

 意識が遠のくほど長い長いキスをされてから、ようやく紫音に解放された。

 ハアハアと息切れしながら紫音を怒ろうとすると、彼は私のことをまっすぐ見つめて、低い声でつぶやく。

「……全然足りない、千帆」

「な、何言っ……」

「こんなん、本能行動の範疇、とっくに超えてる。……おかしくなるくらい、千帆が欲しい」