そこには、息を乱している紫音がいた。

「し、紫音……わっ!」

「千帆、何もされてないか⁉︎」

 私を見るなり、両肩をガシッと掴んで、真剣な瞳で私の顔を覗き込む紫音。

 いったいどれだけ走り回って私のことを探してくれたんだろう。

 いつもクールな紫音が焦っているのを見ると、なぜか胸がきゅっと苦しくなった。

「大丈夫だよ。ていうか、あの、騙されてごめんなさい……。ちゃんと警戒したはずだったんだけどね、ちょっと自分の言葉が足らなかったみたいで、えっと……この度はご心配とご迷惑を……」

 必死に謝る言葉と言い訳を探していると、紫音は何も言わずにぎゅっと私のことを抱きしめる。

 紫音の使っているシャンプーの香りがして、さらに鼓動が早まった。

 ハグなんて小さい頃は、自分から挨拶みたいにしていたのに……!

「もういい。千帆が無事なら」

「し、紫音……」

「心臓、どうにかなりそうだった……」

 吐息まじりにそんなことを耳元で囁かれたら、それこそ心臓がもたないよ。

 私はぎゅっと背中に手を回して、「心配かけてごめんね」と素直に謝った。

 すると、背後から何やら視線を感じる。

「うわー、めちゃくちゃイチャつく材料にされてる、俺」

「殺す」

「そんな怒んないでってば」

 三条君はいつも通りの笑顔でへらっと笑って、紫音の暴言をかわしている。

 私は紫音に抱きしめられたまま、この場に流れるぴりついた空気にひたすら耐えるしかない。