「三条君が好きになる人は……、一緒にいたい人は、三条君が選んで決めていいんだよ? その相手が、Ωでもαでもβでも、関係ないよ」
「は……?」
「そうじゃないと、私は辛い。そんな風に決めつけてる人が近くにいたら、私は悲しいよ」
「意味、わかんねー……」
私の言葉に、三条君は目を丸くしてそうつぶやいた。呆れてるでも怒ってるでもなく、ただ茫然と。
騙されたことには腹が立ったけれど、ものすこく凝り固まった世界で生きてきたであろう彼の発言を聞いたら、同情に近い感情が生まれてしまい、いつのまにか怒りも消えた。
最近Ωになったばかりの私にはわからない、αならではの苦痛が、きっとこの世界にはたくさんたくさんあるんだろう。
わからないから、私は私の思ったことを伝えるしかなかった。
三条君は、長い前髪をくしゃっとさせて、理解できないものを見る目で私のことを見つめている。
私は怯まずに、三条君の目をしっかり見て、「先に行くね」と言って横を通り過ぎた。
しかし、彼はそんな私の手をパシッと掴んで、引き止める。
「待ってよ! 千帆ちゃん」
彼の顔はとても必死で、さっきまでの仮面を貼り付けたような表情が、崩れ去っていた。
「その権利、俺にもあんの?」
「え……?」
「そばにいたいと思う人、選ぶ権利」
その問いかけに、私は一瞬目を丸くする。
だって、そんなの当たり前のことだから。
「あるよ。絶対に」
それだけ言い残して、私は屋上の出口へと向かう。
茫然自失とした三条君の手を振り払って歩き出すと、ちょうど勢いよく屋上のドアが開いた。