「クラスメイトから聞いたよ。君とあのα、幼なじみなで番関係なんでしょ? あんなに必死になって君のこと守ろうとしてさあ……、笑えるよね」

「笑えるって、どういう意味?」

「ただの本能行動を恋愛だと勘違いしてて笑えるって言ってんだよ」

 ガシャン!という音を立てて、三条君が私の真横のフェンスを掴んだ。

 一気に笑顔が消え去り、獣のような目で私のことを射抜いている。

 流石に怖くなって、私はごくりと唾を飲みこんだ。

「アンタたちを見た瞬間、ぶっ壊してやりたいって思った」

「さ、三条君……」

「αとΩに人間らしい感情なんて必要ない。俺たちはただ国に飼い慣らされてるだけの人間で、本能に従って生きることだけを求められてるんだからな」

 三条君のその言葉を聞いて、なぜか胸が軋んだ。

 そう思っているってことは、三条君は誰かにそう言われたことがあるってことだ。

 いったい誰が、そんな酷なことを彼に言ったんだろう。

 なんて悲しく思っているうちに、三条君の顔があと五センチのところまで迫っていた。

「俺のキスで、アンタたちの関係なんて、ぶっ壊してやるよ」

「ちょ、ちょっと待って‼︎」

 私は急いで口と口の間に自分の手のひらを差し込んで、壁を作った。

 突然の行動に、三条君は目をパチクリとさせて私のことを見つめている。

 そんな彼に向かって、私は思っていることをそのままぶつけた。

「私たちへの嫌がらせに、初対面の私とキスするなんて、コスパ悪くない⁉︎」

「は……?」

「本能に従って好きでもない人とキスするなんて、やっぱりおかしいよ。そんなの、もし国が決めたって私は逆らう」

「何言ってんの、アンタ……」

 突然おかしなことを言い出す私に拍子抜けしたのか、三条君はずっと私から離れて、冷めた顔つきになった。

 それでも私はめげずに話し続ける。